本研究は、組織内に散在する情報を意思決定者により正確に伝えるためにはどのようにすべきかに着目して分析を行い、最適な組織体制について知見を与えることを目指している。具体的には、情報の非対称性の下、合理的な経済主体が効用や利益を最大化すべく戦略的に行動することを想定し、ゲーム理論や情報の経済学を用いた分析を行う。令和5年度については、次の件を大きく進展させた。
研究 “Countervailing Conflicts of Interest in Delegation Games”(S. Chiba & K. Leong著)は、組織などにおける意思決定権限者(プリンシパル)からプロジェクト情報を持つ部下(エージェント)に、新規プロジェクトの選択・実行の決定権限を移譲するメリットを分析した。チープトークモデルの応用研究である。Dessein (2002)をはじめとする既存研究では、両者のプロジェクト選好の相違(利益相反)の程度が小さい程、プリンシパルにとっては権限移譲するメリットが大きいとの単調な関係が示されていた。しかし、この研究では、既存研究が想定しなかった現状維持(新規プロジェクトを実施しないというアウトサイドオプション)が選択できる状況においては、利益相反の程度と権限委譲のメリットの関係が非単調である(つまり、意見が相違する部下に権限を移譲することが悪いとは限らない)ことを示した。2024年11月に、Games(査読付き国際誌) に採択、掲載された。
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