研究課題/領域番号 |
20K01552
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
大石 尊之 明治学院大学, 経済学部, 教授 (50439220)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 反双対性 / 協力ゲーム理論 / マッチング労働市場 / 民間仲介業者 / 公共職業安定所 |
研究実績の概要 |
2021年度までに研究を進めてきた反双対性によるコアの戦略的基礎付けの理論を、マッチング労働市場に応用するための、新しいマッチング労働市場モデルの構築とその分析を実施した。その研究成果を海外の国際学会で発表し、また、査読前論文としてSSRN(Social Science Research Network)上で論文を公開した。具体的な研究概要は以下の通りである。マッチング労働市場の先駆的研究である、Kelso and Crawford (1982, Econometrica 50: 1483-1504)は、各企業が各労働者に給与をオファーするアルゴリズム(以下、給与調整プロセスと呼ぶ)を提唱し、このプロセスのもとでは安定的な企業・労働者間のマッチングを表すコアが必ず存在することを証明した。大石は、富岡淳氏(明星大学准教授)と坂上紳氏(熊本学園大学准教授)とともに、Kelso and Crawfordモデルに民間仲介業者と公共職業安定所を表現する二人の経済エージェントを追加し、各仲介人が企業のかわりに労働者に給与をオファーするアルゴリズム(以下、修正給与調整プロセスと呼ぶ)を提唱した。このアルゴリズムでは、企業が雇用できる労働者の潜在的な集合を各仲介人が設定できる点が、従来の給与調整プロセスと異なる。大石たちは、修正給与調整プロセスのもとでは、仲介料レートがある水準以上ならば、民間仲介業者を通じて高技能労働者たちは高技術企業に、公共職業安定所を通じて低技能労働者たちは低技術企業に、それぞれ雇用されるような仲介労働市場のコアが存在することを証明した。逆に、仲介料レートが当該の水準より低いと、職業安定所を通じて、高技能労働者たちは高技術企業に、低技能労働者たちは低技術企業に雇用されるような仲介労働市場のコアが存在するが、その場合は政府支出がより大きくなってしまうことも証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の研究実績報告書で示した今後の研究指針方策では、開発した反双対性によるコアの戦略的基礎付けの理論を、ミクロ経済学の古典的な純粋交換経済モデルに応用することを目標としていたが、最終的な理論の応用先は現代的なマッチング労働市場であることから、2022年度はマッチング労働市場への応用を念頭にした経済モデルの開発とその分析を実施した。結果は、以下の国際学会で大石によって口頭で報告された。 学会名:International Conference on Distributive Justice and Fair allocation in Honor of Retirement of Professor Youngsub Chun (Busan, Republic of Korea, 発表年月日:2023年3月25日) 題目:Coexistence of private intermediary agents and public employment offices in labor markets また、査読前論文としてSSRN(Social Science Research Network)上で以下の論文を公開した。 Takayuki Oishi, Jun Tomioka, and Shin Sakaue, Stability of Coexistence of Private and Public Job Placement Services in Labor Markets (March 31, 2023). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4405695 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4405695
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今後の研究の推進方策 |
2022年度で得た研究成果(詳細は研究概要を参照)と2021年度で得た研究成果を結び付けて、反双対性による協力ゲーム理論のマッチング労働市場への応用を示すことが、今後の研究方向として取り組むべき課題である。Kelso and Crawford (1982)では、彼らのモデルの特殊ケースとして、企業サイドをダミー企業の集合、労働者サイドを自分の生産物だけに依存する効用関数を持つ労働者の集合として表現する、1サイド市場モデルが導入されている。ただし、生産物は貨幣(給与)でその価値が測定されている。このモデルは、譲渡可能効用の下でサイドペイメントがある協力ゲーム(TUゲーム)と本質的に同じになるので、TUゲームにおいて構築された反双対性の協力ゲーム理論を適用できることになる。Kelso and Crawford (1982)は、この1サイド市場モデルで、ダミー企業に対して、(生産関数として表現された特性関数の)優加法性、ノーフリーランチ条件、粗代替性条件を課すと、給与調整プロセスが非空なコアをもたらすことを証明している。給与調整プロセスは、戦略的交渉ゲームとしてみなすことができるので、2021年度に提唱した、戦略形ゲームの自己反双対性という概念を、Kelso and Crawford モデルに適用できる可能性がある。まずは、この可能性について分析を進めていく。この基礎的な分析ができれば、2022年度に開発したKelso and Crawford モデルの拡張モデルに対しても、発展的な研究を進めることができることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、年度末に新型コロナウィルスによる世界的パンデミックがようやく終息をみせ始め、国際学会の対面開催も再開されるようになったことから、ソウル国立大の経済研究所分配的正義センター主催のInternational Conference on Distributive Justice and Fair allocation in Honor of Retirement of Professor Youngsub Chun (於:釜山, 大韓民国)で研究発表を実施した。しかしながら、2022年度の大部分は、新型コロナウィルスによる世界的パンデミックのために、対面での研究交流の機会がほとんどなかったために、海外研究機関での在外研究を目的とした海外渡航等ができなくなったために、関連する旅費の使用ができなかった。これにより、次年度使用額が生じた。2023年度は、昨年度までできなかった海外研修等を実施し、研究成果を論文としてまとめることができるように、適切に研究費を使用していきたい。さらに、研究遂行に必要不可欠な環境整備のために、PCあるいはその周辺機器、ソフト、ならびに関連研究書籍等の購入にも当該助成金を使用したいと考えている。
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