| 研究課題/領域番号 |
20K01565
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| 研究機関 | 上智大学 |
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研究代表者 |
釜賀 浩平 上智大学, 経済学部, 准教授 (00453978)
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| 研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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| キーワード | 社会的選択理論 / 公理的分析 / 人口倫理 / 持続可能性 / 充分主義 / 厚生経済学 / 選択関数 |
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| 研究実績の概要 |
令和３年度は，前年度に引き続き，現在世代と将来世代の利害を不偏的に考慮する社会厚生評価の方法について，人口倫理学の文脈で論じられてきた将来世代の人格の非同一性に焦点を当てて，研究を行なった．将来の各時点で生存しうる人々の人格は，現在世代の選択により異なりうるという人格の非同一性問題について，将来生存しうる人々の人格を観察によって識別することが不可能であるという状況下を理論的分析枠組みで定式化し，この仮定といくつかの諸条件（公理）の下で論理的に許容される優劣評価方法は，将来世代の利害を不偏的に処遇する（強い匿名性公理を満たす）ものに限られることを明らかにし，また同時に，その諸条件と論理的に両立可能な効率性概念を明らかにした論文を執筆し，国際査読付き雑誌に投稿した．また，当該論文に関連する問いとして，強い匿名性公理を満たす功利主義基準を分析し，そこで分析された功利主義基準が動学的経済モデルに適用した際に最適経路（厳密には，極大経路）を導出することが可能であることを明らかにした論文も執筆し，国際査読付き雑誌に投稿した．さらに，強い匿名性公理といくつかの諸公理の下で論理的に許容できる支配公理（１世代の厚生変化に対する感応性）を論理的に特定し，人口倫理への含意も明らかにした論文も執筆し，国際査読付き雑誌に投稿した．これらの研究は，将来世代の人口規模に影響を与えうる政策を規範的見地から選択する上で重要な示唆を与えるものである．
また，人口倫理学で議論されてきた諸性質の両立可能性をより直接的に分析する研究として，充分主義の考え方を定式化した上で再検討した論文を国際査読付き雑誌より公刊した．この公刊論文に関連する論文も執筆し，国際査読付き雑誌の査読を経て改訂作業を行なっている．これらの研究は人口倫理を選択関数アプローチで問い直す際に注目すべき論点を精緻化する上で重要な知見を与える．
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ感染拡大による海外渡航制限により，予定していた学会報告が行えず，また，共同論文として作業している研究課題について，対面での集中的な議論ができず，遂行に若干の難しさが生じたものの．オンラインでの学会・セミナー発表や，オンラインミーティングにより代替的に遂行を継続することで，おおむね順調に研究を遂行することができている．
将来世代の人格の非同一性に焦点を当てた研究では３本の論文を国際査読付き雑誌に投稿しており，人口倫理と充分主義の関連性を明らかにする論文は１本が公刊され，もう１本も国際査読付き雑誌に投稿を行った他，関連する人口倫理及び貧困指標に関する研究を論文２本にまとめて国際査読付き雑誌に投稿を行っている．こうした点から，本年度までに取り組んできた研究課題については，順調な進展を実現できているものと評価している．
国際査読付き雑誌に投稿中の諸論文について，人口倫理と充分主義（及び拡張として得られる貧困指標）に関する論文については，査読を経た最終的な改訂の段階にあり，より順調に研究が進展している．一方で，将来世代の人格の非同一性に焦点を当てた３本の論文については，更なる改訂が必要であり，査読結果を踏まえたより一層の改訂が必要な段階ではある．そうした段階ではあるものの，これら３つの論文は，ノルウェーおよびフランスの共同研究者と共同で行なっている研究であるが，メールやオンラインミーティングを活用することで，コロナ禍の制約の下で可能な限りの進展に向けた努力を行っており，また，昨年度に懸案事項であった経済環境を明示的に取り込んだ社会的選択ルールに関する研究をそれら３つの論文のうちの１つとして完成させており，おおむね順調に進んでいると評価している．
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| 今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の研究期間の最終年度にあたり，まず第一に取り組む作業として，これまでに執筆した論文を公刊に結びつける作業に注力する．現段階で国際査読付き雑誌に投稿中の６本の論文について，査読結果を踏まえた改訂及び再投稿を共著者と連携して行い，研究期間内に可能な限り多くの公刊論文として成果を生めるように努力していく．令和４年度は，昨年度よりも海外渡航の難しさが緩和されると予想されるので，国際的な共同研究を遂行する上では，オンラインでの打ち合わせを継続しつつも，直接的な討議を行う機会を作れるよう可能性を検討する予定である．また，国内の他大学での対面によるセミナーも再開されているので，これらの機会を積極的に活用して，論文の改訂に役立てていく予定である．この点については，現段階で，国内の他大学でのセミナー報告を１件予定している他，国際学会での発表も１件予定している．
これまでに投稿論文として形を成した研究以外にも，それらの論文の改訂作業と並行して，残された問題への更なる研究も進めたいと予定している．具体的には，人口倫理と充分主義の関係性に関する研究を通じて明らかになった問題として，充分主義は人口倫理上の問題に一定の新たな解決を与えうる一方で，資源制約を明示的に扱った環境を想定した場合に，分配的衡平性の観点で見ると，いくらか直観に反する帰結を是認する傾向があることが明らかとなってきた．この問題に焦点を当てた研究に新たに着手することが次に取り組むべき課題として挙げられ，これにも取り組んでいく予定である．研究を遂行する上では，これまでの共著者と連携して国際的な共同研究として行う予定であるが，その際に課題となる議論の場の不足については，昨年度までと同様にオンラインミーティングを積極的に活用するなどして対処する予定である．
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| 次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き，予定していた国際学会がコロナ感染拡大によりオンライン開催となり，旅費として予定していた支出が生じなかったため，次年度使用額が生じている．本年度は現段階では対面での国際学会発表を予定しており，そこでの支出に充てるほか，残された課題に関する新たな継続研究を行うために必要な書籍の購入などに用いる予定である．また，今年度中に投稿中の論文の公刊が決定する場合には，論文をオープンアクセスとするための費用に充てる予定である．
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