研究課題
令和4年度は,前年度に引き続き,人口倫理学で人格の非同一性と呼ばれる問題に関連させつつ,現在世代と将来世代の利害調整問題に関する研究を継続して行った.前年度までに行っていた研究として,将来生存しうる人々の人格が観察不可能である場合に適用すべき選択肢(社会状態)間の支配関係に関する研究と,将来世代の利害を普遍的に処遇することを論理的に最も強い形式で要求する強匿名性と呼ばれる条件を満たす功利主義基準の定式化および動学的経済モデルへの適用の研究があるが,これら成果を国際査読付き雑誌への投稿により行われた査読結果を踏まえて,新たな論文として,強匿名性の下で論理的に両立可能な効率性概念の特定を行った論文を執筆し,国際査読付き雑誌から公刊した.この論文で明らかにされたことは,強匿名性およびいくつかの補助的条件の下では,それらと論理的に両立可能な効率性概念は,効用(福祉水準)の世代間配分の中で相対的に不遇と判定される効用水準を情報として用いる効率性概念となることである.このことは,世代間の利害調整問題において相対的に不遇な諸個人の状態に目を向けることを支持する理論的根拠を与えるものと解釈できる.また,研究期間(令和2年度から4年度)を通じた研究成果をまとめると,人口倫理に関連する諸問題を軸として,社会状態の評価のあり方を公理的分析により様々な観点から明らかにした.最適な状態の選択という問題に関しては,経済学的な応用の容易さから無限視野の枠組みで取り組み,将来世代の人格の観察不可能性を切り口として,強匿名性を満たす評価方法と,それによる最適経路選択について明らかにした.また,有限視野の枠組みでは,充分主義や可変価値と呼ばれる評価のクラスに関して,人口倫理に関する性質を公理的に明らかにした.
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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