研究実績の概要 |
2022年度は二つの異なるモデルを開発した。一つは古典的な独占モデルの拡張、他は環境汚染除去に関するモデルである。前者はJ.Robinson(1936, Economics of Imperfect Competition)で提唱され、T. Puu (1995, CSF)において数理的に展開されたモデルの安定性を離散時間と遅延連続時間の枠組みのもとで考察したものである。後者は面源汚染(Non-point Source pollution)に対する環境政策の有効性に関する考察である。 (I) 独占モデル:教科書的な独占モデルとは以下の2点において異なる。(i)、Robinson (1936)に従い、需要曲線は右下がりと想定するが、限界収入曲線は単調減少ではなく右上がりになる部分を含む。(ii) 需要曲線に関する情報は不完全である。さらにその不完全性の度合い応じて、独占者を2種類に分類する。L(limited) monopolistは需要曲線の形状は不知で過去の取引履歴は既知であり、K(knowledgeable) monopolistは需要曲線の形状を知っている。この情報量の違いが生産決定およびその動学的な変動にどのような影響を及ぼすのかを考察した。主な結論は以下の3つである:離散時間モデルでは不安定経路は周期倍加分岐かNeimark-Sacker分岐を通じて複雑化するが、豊かな情報量が必ずしも利益の増大には結びつかない。他方、連続時間モデルにおいては取得情報の違いは動学に本質的な影響を与えない。 (II) 環境モデル:製品差別化のある複占モデルでは若干の例外はあるが、環境政策は環境汚染を逓減することができる。さらに環境政策は安定領域の拡大と不安定経路の安定化を周期半減分岐により実現する。製品差別化のないN企業寡占モデルではナッシュ解の存在と環境政策の有効性が示された。 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非線形独占モデル分析は2本の論文にまとめられ、イタリヤのミラノで開催されたNonlinear Economic Dynamics 2021(Universita Cattolica der Sacro Cuore, 13-15, September 2021)において報告された。その後、非線形動学の 専門雑誌である Chaos, Solitons and Fractals (Elsevier, IF 9.922, Cite Score 9.9) とCommunication in Nonlinear Science and Nonlinear Simulation(Elsevier, IF 4.186, Cite Score 7.7)に投稿後、採択された。また環境分析も2本の論文にまとめられ、それぞれJournal of Differential Equations and Applications(Tayloer and Francise, IF 1.352, Cite Score 2.2)とAsian-Pacific Journal of Regional Science(Springer, h-index 9)に投稿後、採択された。4本の論文はすでに刊行され、online および雑誌で閲覧可能である。
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