研究課題/領域番号 |
20K01569
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
田畑 顕 関西学院大学, 経済学部, 教授 (20362634)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 研究開発投資 / 再生不可能天然資源 / 持続的経済成長 |
研究実績の概要 |
Grossman and Helpman (1991, CH3)型のvariety expansion 経済成長モデルに再生不可能な天然資源と資産保有水準が異なる異質な家計を導入し、天然資源の利用に対する課税政策が経済成長率と消費や資産の不平等度に及ぼす影響について分析を行った。そして、天然資源の利用に対する課税負担が時間とともに低下するように設計された場合にのみ、天然資源利用課税政策が企業に天然資源利用の先延ばしの誘因を与え、経済成長を促進する効果をもつことを明らかにした。また、このような天然資源の持続的利用を促す課税政策が、利子率と経済成長率の差の拡大およびR&D投資の減少を通じた賃金の伸び率の低下を通じ、消費と資産の不平等度の拡大をもたらすことも明らかにした。消費や資産の不平等度の拡大を伴わずに、天然資源の持続的利用を促し、経済成長率を高めるには、天然資源利用課税で得られた税収の一部を所得再分配目的の政府支出に割り当てる必要がある。既存研究では、天然資源がもつ資産としての側面に注意が払われず、天然資源利用課税政策が消費や資産の不平等度に及ぼす影響についてはほとんど分析がされてこなかった。資産としての天然資源の側面に着目し、天然資源の持続的利用を促す政策が持つ意外な副作用を明らかにした点が本研究の貢献である。現在、以上の理論分析結果を論文としてまとめるべく作業中である。Discussion paperとしてなるべく早い段階での公開を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の推進方策の計画では、人口の高齢化が「需要構造の変化」と「セクター別の生産効率改善投資の難易度の違い」の相互作用を通じて、長期的な経済成長率に及ぼす影響について分析する経済成長モデルを構築すること、およびその理論結果の妥当性について数量的に検証をすること、を本年度中達成すべき課題として挙げていた。しかし、「需要構造の変化」を生み出すメカニズムを導入することが、想定以上に、技術的に難しかったこともあり、「需要構造の変化」と「セクター別の生産効率改善投資の難易度の違い」の相互作用に関して、興味深い理論的含意を導くことはできなかった。しかし一方で、Grossman and Helpman (1991, CH3 )型のvariety expansionモデルを利用することで、天然資源利用課税政策と消費の不平等の関係に関して、興味深い理論的含意を導くことには成功した。以上、当初の計画とは異なるものの、「天然資源利用課税政策」と「消費の不平等」の関係という重要な学術的な「問い」に答えるために有用な経済成長モデルの構築には成功しており、その点については評価できると考えている。しかし、研究の推進方策の計画で、提示した人口の高齢化が「需要構造の変化」と「セクター別の生産効率改善投資の難易度の違い」の相互作用を通じて、長期的な経済成長率に及ぼす影響について分析する経済成長モデルの構築には成功しておらず、さらなる検討の余地が残る。その意味では、現在までの達成度は「やや遅れている」と判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は当初令和4年度に計画していたものの、実施には至らなかった(1)人口の高齢化が「企業が行う技術開発の方向性」への影響を通じ、自国や外国の長期的な経済成長、経済厚生に与える影響を分析する経済成長モデルの構築、(2)(1)の理論モデルから得られる結果の妥当性についての数量的検証、といった作業に再度取り組んでいく。令和4年度とは異なるアプローチでの人口の高齢化の度合いによる労働力人口比率の国家間での差異が「企業が行う技術開発の方向性」に影響を与えるようなR&D型経済成長モデルの構築を目指す。また、令和3年度に成果をまとめることができなかった、人口の高齢化が「プロダクト・イノベーション(新製品の開発投資)」と「プロセス・イノベーション(既存製品の品質改善投資)」の相互作用を通じて、長期的な経済成長率に及ぼす影響について分析する経済成長モデルの構築にも引き続き取り組んでいく。また、こうした理論分析に基づく数値シミュレーション分析や実証研究のために必要なデータベースの作成などにも取り組む。以上、令和6年度もできうる範囲で、当初の研究計画に沿って研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内業務が想定以上にあったため、論文執筆作業が遅れ、また学会や研究会で研究成果報告をする機会も減ったため、英文校正費、外国旅費、国内旅費の一部を次年度に繰り越すこととなったこと。翌年度に持ち越すことになった453,871円については国内旅費と英文校正費に割り当てる。
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