研究課題/領域番号 |
20K01573
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
守 健二 東北大学, 経済学研究科, 教授 (20220006)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マルクス / 新オーストリア学派 / トラヴァース / 恐慌 / MEGA |
研究実績の概要 |
本研究は、以下の4つの研究方法に基づいて実施されている。すなわち、1)新オーストリア学派トラヴァース理論の理論的検討、2)マルクス経済学草稿におけるトラヴァース分析の発掘と理論的再構成、3)学会報告、論文投稿等による研究成果の発信と討論、4)英文書籍の出版である。 まず1)および3)に関する実績については、①研究ノート(K.Mori/Y.Wang:A Comment on Li, Zhao and Liang: “Actual Versus Optimum Labor Value Dilemma: a Way Out”)を執筆して、2021年5月20日開催の国際ワークショップ「Tsinghua University & Tohoku University Joint Workshop」において公表した。そこでは、新オーストリア学派トラヴァース理論の理論的基礎をなす、time-profileによる多部門生産モデルであるB.Bellocの「非統合新オーストリアモデル」を精査し、新たに均衡価格の存在証明を行うことによって、固定資本体系のスラッファ結合生産モデルとの同等性を明らかにした。②理論比較として、技術選択後の価格調整と数量調整の収束過程にかんする進化経済学アプローチを批判的に精査し、当該分野の国際的トップジャーナルMetroeconomicaに掲載した。③理論比較として動学レオンチェフモデルにおける価格体系および数量体系の移行過程を研究するため、Morishima: Equilibrium, Stability and Growthを精査した。 次に2)に関しては、前年度に引き続き、「新マルクスエンゲルス全集」(MEGA)第II/4.3巻から、マルクスの1867-68年利潤率草稿を精査し、リカード機械論の影響という観点から改めて再構成し、新たな論文の着想を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記「研究実績の概要」で述べたように、研究方法1)2)3)については研究ノートの作成(国際ワークショップで公表)、国際共著論文のジャーナル掲載、新たな論文の着想などの研究成果が着実に得られた。その意味では2021年度の単年度に関しては、研究は「概ね順調に進展している」と評価することができる。しかし、下記の理由で、2020年度に発生した「やや遅れている」進捗状態が、2021年度においてまだ完全に回復しなかった。すなわち、2021年度も引き続き、政府の水際措置、大学行動指針による行動制限ないし渡航制限により、当初の予定通りに研究計画を実施することが不可能となった。特に、マルクスのトラヴァース分析の理論的再構成を精緻に行っていくに当たり、MEGA第II/4.3巻に所収されたマルクスの1867-68年利潤率草稿が、錯綜した筆記状態として遺されているために、マルクスのオリジナル原稿ならびに関連史料を実見する必要があるが、そのために予定されていたアムステルダム社会史国際研究所への出張が事実上、不可能であった。併せて、マルクスのトラヴァース分析の基になった1857年恐慌研究については、イギリスの工場監督官報告などの影響を精査する必要があり、その資料収集のため大英図書館への出張が必要であったが、やはりそれも事実上、不可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、上記「研究実績の概要」で述べたように、研究方法2)に関して、マルクスの1867-68年利潤率草稿が、1857-58年の恐慌研究と同様に、とくにその固定資本・流動資本分析において、リカード機械論における移行過程分析、とくに固定資本形成期における流動資本財の過少生産の解明、に影響を受けて構想されたものであることが改めて確かめられたため、この論点についてさらに考察を進めて論文を執筆し、国際専門誌に投稿したい。 第二に、マルクスのトラヴァース分析を理論化する試みとして、諸変数の不連続関数を用いて恐慌現象をその不連続点として扱うことを可能にするために、ルベーグ積分、超関数論、ラプラス変換を用いたモデル構築を行い、その研究結果をディスカッションペーパーとして公表し、国際的に議論を提起したい。この取組は、昨年度に予定されていたが、実施が叶わなかったので、今年度は実施できるよう努めたい。 第三に、過去2年間新型コロナウィルス感染拡大で実施できなかった研究計画について、可能になり次第回復を図りたい。すなわちまず、研究方法1)ないし2)に関する研究成果について学会報告を行い、専門家によるレヴューおよび意見交換を通して彫琢を図っていく。またマルクスのオリジナル原稿ならびに関連史料の実見のためにアムステルダム社会史国際研究所ないし大英図書館への出張を実施する。 第四に、マルクス経済理論にかんする最新の研究動向を踏まえるために、とくに数理分析を含んだ国内外の研究書を精査し、レヴューを執筆したい。 第五に、本申請研究を含め、過去20年間にわたるMEGA編集の過程で解明したマルクス経済理論の新事実について、集大成として英文書籍(仮題:New Aspects of Marx’s Economic Theory in MEGA)にまとめ国際出版するために、book proposalを準備したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も引き続き、政府の水際措置、大学行動指針による行動制限ないし渡航制限により、当初の予定通りに研究計画を実施することが不可能となった。特に、マルクスのトラヴァース分析の理論的再構成を精緻に行っていくに当たり、MEGA第II/4.3巻に所収されたマルクスの1867-68年利潤率草稿が、錯綜した筆記状態として遺されているために、マルクスのオリジナル原稿ならびに関連史料を実見する必要があるが、そのために予定されていたアムステルダム社会史国際研究所への出張が事実上、不可能であった。併せて、マルクスのトラヴァース分析の基になった1857年恐慌研究については、イギリスの工場監督官報告などの影響を精査する必要があり、その資料収集のため大英図書館への出張が必要であったが、やはりそれも事実上、不可能であった。 使用計画としては、海外渡航が可能となり次第、マルクスのオリジナル原稿ならびに関連史料の実見のためにアムステルダム社会史国際研究所ないし大英図書館への出張を実施する。また研究成果について、専門家によるレヴューおよび意見交換を通して彫琢を図っていくため、国外ないし国内の学会に出張して報告を行う。
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