研究課題/領域番号 |
20K01576
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
新村 聡 岡山大学, 社会文化科学研究科, 特命教授 (00167561)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アダム・スミス / 『国富論』 / 『法学講義』 |
研究実績の概要 |
スミスの『法学講義』行政論と『国富論』を比較して、かれが何を富の原因と考えたか、また富の主要原因がいくつあると考えたかについて考察した。『法学講義』行政論では、富裕の原因と富裕の遅い進歩の4原因を合わせた富裕の5原因について論じている。富裕の原因とは、農工商などの技術と分業である。富裕の遅い進歩の4原因は、4段階論(狩猟・牧畜・農業・商業)を基礎にして考察されている。第1原因はインディアンなどの狩猟社会に典型的に見られる資本不足と分業の未発達であり、第2原因はタタール人などの初期社会で司法と軍備が不十分であるために労働成果に対する隣人の侵害と近隣諸国民の侵略・略奪に晒されることである。第3原因は、封建的統治のような農業社会で、長子・限嗣相続法によって大土地所有が維持され、耕作者の労働成果と投下資本に対する所有権が十分に保障されないために勤労と改良への動機が生じにくいことである。第4原因は商業に対する抑圧的政策であり、商業への蔑視、定期市、重商主義、同業組合などがある。 スミスは、『法学講義』行政論で示された以上の富裕5原因論を、『国富論』第1~5編で発展させている。第1編では、富裕原因論としての分業論を拡充している。第2編では、資本蓄積を富裕の原因として論じている。第3編では、富の原因である生産者の所有権の確立過程を自然的進歩として述べている。第4編では、『法学講義』以来の重商主義批判を発展させて、富の原因としての自由貿易が主張される。第5編では、(1)司法、(2)軍備、(3)公共事業と公共制度を政府の3大義務としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画をほぼ達成している。
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今後の研究の推進方策 |
スミスが『法学講義』では述べていない銀行券選択条項禁止、少額銀行券発行禁止、高利禁止などの金融規制策を『国富論』で主張するようになった歴史的背景と理論的意義について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により旅費の支出が少なかったため。 物品費として使用する予定。
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