研究課題/領域番号 |
20K01576
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
新村 聡 岡山大学, 社会文化科学研究科, 特命教授 (00167561)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アダム・スミス / 自由放任 |
研究実績の概要 |
本研究は、アダム・スミスが1760-70年代の2回の金融危機を経験して、銀行政策を銀行の自由放任から厳格な規制へ大きく転換したことを明らかにした。 スミスは、当初、銀行の自由放任政策を支持していた。しかし1760年代前半のスコットランド為替危機に直面して、グラスゴウなどの地方銀行とスミスは、発券独占を企図するエディンバラの二大銀行に対抗して、発券の自由を維持するとともに、金融危機の原因と考えられた銀行券の選択条項と小額銀行券発行を禁止する1765年法を成立させた。スミスはこの過程で銀行の自由放任政策を限定し、銀行の自然的自由を法的に禁止する必要がある場合を認めるようになった。 さらにスミスは、1772年のエア銀行倒産に始まる金融恐慌を経験して、同銀行の破綻原因が銀行券の過剰発行であったことを認識した。スミスは『国富論』で、銀行券の過剰発行を抑制するために、以下のような厳格な融資原則を提案している。第1は銀行が真正手形だけを割引いて不良債権となりがちな融通手形を割り引かないこと、第2は銀行が手元現金だけを貸して流動・固定資本を貸さないこと、第3は銀行が不動産担保貸付を行わないことである。またスミスは、投機的企業家への融資を防ぐために高利禁止法を支持している。 こうしてスミスは、『国富論』において、(1)銀行に対する限定的な自由放任政策、(2)政府による銀行規制策、(3)銀行の厳格な貸出原則、(4)高利禁止法、を主張するのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画にそって、スミスの大きな政府論の全容を解明しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
『法学講義』から『国富論』への租税論の転換とその思想的背景を考察する。 『法学講義』では、経済主体の意欲を妨げない軽い税が望ましいとされていた。しかし『国富論』では税の公平性が重視され、土地税の増税、必需品消費税の廃止、通行税・家賃税・相続税などの累進税等さまざまな税制改革を通じた所得再分配と平等化が主張されるようになる。さらにこうした租税論の転換の背景に平等観の転換があったことについても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により学会出張が中止となったために旅費が残った。 次年度に旅費および物品費として使用する計画である。
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