研究課題/領域番号 |
20K01580
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
原 伸子 法政大学, 経済学部, 教授 (00136417)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジェンダー / 労働者家族 / 子ども / 児童労働 / 人的資本論 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究実績は以下のとおりである。 ①単著「エンゲルス『起源』の「二つの生産と」労働者階級家族」『大原社会問題研究所雑誌』No.748、7-20、2021年2月。本論文は、産業革命期の家族と経済との相互関係の中に、児童労働を位置づけるJane Humphriesの歴史的・理論的方法を検討したものである。それは、ジェンダー問題を男性と女性の問題として位置づける立場に対して、子どもと児童労働を導入する必要があるという主張である。翻って、現代の子どもの貧困問題も、実際にはジェンダー問題と不可分に結びついていることを示唆している。 ②単著「教育の市場化と人的資本論ー教育改革を支える新古典派経済学批判」教育文化総合研究所『教育と産業』所収、16-26、2021年7月近刊予定。本論文は、直接には、現在OECDに先導された形で進められている日本の教育改革を支える理論的枠組みを批判したものである。焦点は、新古典派経済学の人的資本論の検討である。 ③共訳、ジェーン・ハンフリーズ『イギリス産業革命期の子どもと労働ー労働者の自伝から』(全11章のうち、はじめに、序章、2章、3章担当)法政大学出版局、近刊。本翻訳書は、論文①で取り上げた、Jane Humphriesが2010年に刊行した原書を翻訳したものである。翻訳者は、原伸子、山本千映(大阪大学)、赤木誠(松山大学)、齊藤健太郎(京都産業大)、永島剛(専修大学)である。本書は、国際経済史学会の世界的なGeorgy Ranki賞を受賞するとともに、イギリスBBCの3時間におよぶドキュメンタリーに取り上げられた。何より、産業革命期の児童労働が現代の発展途上国を上回るということと、家族と子どもの関係を鮮やかに描き出したことが高く評価されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は研究課題「20世初頭におけるジェンダー平等思想の諸相と福祉国家の起源」というテーマのうち、歴史的研究の分野を中心に研究を進めることができた。 コロナ禍のもとで、当初予定していた海外(イギリス)への第一次文献調査を実施することはできなかったが、研究業績の③に掲げたように産業革命期イギリスの近代化初期の家族と経済に関する必読文献の翻訳(約650頁)を完成させることができた。この文献は、近代化初期の家族と経済、そしてジェンダー、子どもを描くことによって、20世紀初頭のジェンダー平等問題と連携するものとなっている。つまり、20世紀初頭のジェンダー問題は、まさにエリノア・ラスボーンの思想に代表されるように、労働市場における平等と私的領域である家族における母性との対抗関係のなかに位置づけられるからである。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究は、産業革命期の家族とジェンダー・子どもの問題に焦点をあてる歴史研究が中心だった。2021年度中に海外調査ができるかどうかはっきりしないが、今年度は以下のとおり、これまでの研究を国際会議で報告すること、できれば単著の刊行をめざしている。 ①2021年9月に予定されている、日英の格差問題に関する国際ワークショップの「歴史としての日本の階級」において報告する。ここでは、格差とジェンダー、さらに子どもの貧困の問題を論じる予定であり、2020年度の研究成果を公表する場ともなっている。その成果は英語論文にして、海外雑誌に投稿する予定である。 ②2021年度末に、家族、ジェンダー、子どもの問題を『ケアの理論と政策』としてまとめる予定である。 ③2021年度の研究成果は、国際フェミニスト学会(2022年度)で報告予定である。 ④2020年度と2021年度の研究をベースに、2022年度に海外調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額は128円であり、年度末までに全額使用できなかったためである。
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