2022年度の研究実績は以下の通りである。 ①共編著『経済学者たちの女性論』(昭和堂、近刊)の刊行準備である。筆者の担当は、「フェミニスト経済学の成立と展開ージェンダーと『経済学批判』」である。共編著の当該章では、20世紀初頭、福祉国家勃興期のイギリスにおけるジェンダー平等の諸相が、母性をめぐる家族手当と平等賃金の関係であったように、フェミニスト経済学の根幹には、公私(労働市場・国家と家族)における平等をどのように実現するのかという理論的・実践的課題があることを明らかにした。それは同時に、正統派経済学ではケアの概念を方法的・理論的に組み入れることができないこと、明確に経済学批判の観点を必要とすることを明示することである。 ②福田徳三著作集第8巻『経済学研究』(信山社、近刊)の編集と「解題」の作成をおこなった。東京高商(一橋大学)教授福田徳三は20世紀初頭の日本を代表する研究者であり、第8巻には歴史と理論に関する経済学研究の論稿が収められている。福田徳三はドイツ歴史学派に学び、それを日本に導入した先駆者であるが、その立場は福祉国家勃興期日本において、次第に生存権の経済学および社会政策へと移行している。筆者の問題関心は、戦間期日本における経済学および社会政策の論争とその包括範囲である。 ③2022年2月に刊行した共訳書、ジェーン・ハンフリーズ『イギリス産業革命期の子どもと労働―労働者の自伝から』の成果の社会的発信。 一つは、大原社会問題研究所月例研究会(2022年6月22日、大原社会問題研究所会議室)における報告である。報告概要は『大原社研雑誌』第767・768合併号に掲載された。もう一つは、LSE(London School of Economics)ニューズレターに掲載された、日本におけるハンフリーズの著書のインパクト(論文の題名も、Impact)に関する記事への協力である。
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