研究課題/領域番号 |
20K01581
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
舩木 恵子 武蔵大学, 総合研究機構, 研究員 (00409369)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 経済学史 / ユニテリアニズム / マルクス経済学 / ジェンダー / フェミニズム / J.S.ミル / 主流派経済学 / プロト・フェミニスト |
研究実績の概要 |
2023年3月25日日本イギリス哲学会第47回研究大会(於:愛知教育大学)にてシンポジウム「ミル研究の現状と意義ー没後150周年記念」にて司会を担当し、シンポジウム登壇者の哲学・倫理学・政治学・経済学におけるミル研究の現状におけるまとめの一端を担ったが、同時代のフェミニズム思想に関する論考が不足していたため司会者の立場でありながらも補足する結果となり、本研究課題の領域について解説する機会を得、改めて本研究の重要性を自覚した。それ以降2023年度は主流派経済学とフェミニズムの研究を分析することに勤めた。つまりJ.S.ミルは主流派経済学者(古典派経済学)であるが、フェミニストでもありフェミニズムに関する倫理的(道徳的)発展と科学(経済学)がどのように関係するのかミル経済学とフェミニズム・ジェンダー問題がどのように整理できるのか、本年度の研究課題を経済学とフェミニズム思想を中心とした倫理の問題に定め、19世紀のユニテリアン・ウーマンが主流派経済学を批判した論考の分析をおこなった。 6月4日に経済理論学会のジェンダー部会(専修大学)にで「ジェンダーの経済学の学説史」を報告し、最近のジェンダーと経済学の歴史についての出版事項を取り上げつつ、経済学史におけるジェンダーの経済学の歴史分析を報告した。「プロト・フェミニスト」として経済学の分野では経済学の教育者としてしか取り上げられなくても、主流派経済学への疑問・批判を展開した19世紀の女性エコノミストや、価値を理論の基盤に据えるマルクス経済学からジェンダーの経済学、また現代のフェミニスト経済学の源泉が生じていることを文献から突き止め、経済学の歴史にジェンダーの経済学を含める必要性を主張した。これは現在進行中の経済学史の出版企画および『経済学者たちの女性論』(昭和堂)に今後反映される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年6月のマーティノウ・ソサエティ・コンファランス(英.ノリッチ)では、経済理論学会ジェンダー部会報告の「ジェンダーの経済学の学説史」の一部抜粋を英語に訳して報告した。マルクス経済学を基盤とする日本におけるジェンダー経済学として竹中恵美子の労働経済学を紹介し経済学におけるアンペイド・ワークについて論じた。経済学は市場経済の領域を分析する社会科学というのが主流派経済学の方法ではあるが、価値を理論の基盤に据えるマルクス経済学ゆえに、貨幣として捉えられない再生産労働の価値を考察することに意識が向けられ、それによって家事労働などのアンペイド・ワークを竹中恵美子が分析しており、それは日本ではマルクス経済学に基づく労働経済学のジャンルではあるが、まさしくジェンダーの経済学であると報告した。またジェンダーの経済学は経済学批判として経済学の発展と共に存在していたことを論じた。コンファランス報告の後、竹中恵美子の経済学を知りたいという希望がメールで寄せられた。 またハリエット・マーティノゥの後期の著作には経済学説史において領域外のこととして今まで扱われてこなかった女性の再生産労働における価値の分析が論じられていること、またその他にも19世紀のユニテリアン・ウーマンの中に古典派経済学批判として再生産労働の分析が主張されていることなどを示し、ジェンダーの経済学へのユニテリアン・ウーマンの貢献を主張した。併せて経済学説史においてはこれらの事象は扱われてこなかったことも説明し本研究課題の問題意識を深めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の内容を出版する企画が2点あるので、これに向けて執筆活動を推進する。また6月の英国、マーティノゥ・ソサエティ・コンファランスではその内容に関するものを発信し、日本における労働経済学として発展してきたジェンダーの経済学について、国外ではどのような反応なのか、どのような意見が得られるのかの結果を収集する。英国での先駆者であるユニテリアン・ウーマンと日本における労働経済学というジャンルを通して別の視点から生み出されてきた日本のジェンダーの経済学がどのように関係づけられるのかを分析し、本研究課題を掘り下げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は研究がまとめに入り執筆に集中したため、発表や普及に対する移動についての交通費が次年度に繰り延べされたためである。 次年度は研究成果のまとめと共にその報告の機会を積極的につくり、国内外に発表するための費用として使用する予定である。
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備考 |
[翻訳]「ハリエット・マーティノゥの自伝」 (Cambridge University Press,2010) 『武蔵大学総合研究機構紀要』No.32に一部掲載した(今後継続的に発表する予定)。
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