研究課題/領域番号 |
20K01582
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
中野 聡子 明治学院大学, 経済学部, 教授 (20245624)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エッジワース / エッジワースボックス / 契約モデル / 包絡線 / 制度設計 / 外部性 / 寡占市場 / 価格サイクル |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでの一般均衡理論を主流とする経済学史の理解とは異なり、ゲーム理論等を軸とした現代経済学への展開を解明することをねらいとし、その端緒となるエッジワースに焦点をあてる。2021年度は、一昨年度作成のエッジワースの文献目録をベースに、Edgeworth (1881) (Mathematical Psychics) から、1925年までの多数の論文に一貫するエッジワースのミクロ分析のビジョンを解明することに取り組んだ。Edgeworth (1881)に始まる契約モデルは、次の4点の拡張性を含んでいた。(1)生産及び消費の包絡線構造の 内生的決定:後にいわゆるMarshallian ExternalityおよびChipman (1970)のパラメトリック外部性の定式化、Leibenstein (1950)のバンドワゴン効果等の議論 (2)独占・寡占市場におけるサイクル均衡と安定性: Hotelling (1929) の立地モデル、Maskin and Tirol (1985)のエッジワース価格サイクル等の議論 (3)バーゲニングの交渉解と企業家行動の分析:リスクや不確実性の評価についての議論 (4)コースの定理の取引費用を軽減する組織や制度の分析への影響。今年度は、(2)これまでに関連するBertrandのフランス語文献、エッジワースのイタリア語文献等を邦訳し、分析を行った。エッジワースの契約モデルは、当初から包絡線構造を含む制度設計の視点、寡占市場の均衡の挙動、時間を通じた不確実性評価等について現代経済学の先駆的ビジョンを有することが解明されつつあり、現在「なぜエッジワースはエッジワースボックスを描かなかったか?制度設計の視点の現代経済学への静かなる浸透」という論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、「なぜエッジワースはエッジワースボックスを描かなかったか?制度設計の視点の現代経済学への静かなる浸透」 “Why didn't Edgeworth draw an Edgeworth box ? Dissemination of institutional design perspectives into modern economics”という論文の執筆を開始した。エッジワースボックスダイアグラムという名称がついているにもかかわらず、エッジワースは、いわゆるボックスダイアグラムそのものを描いていない。このことは、学説史研究上、さまざまな角度から指摘されてきた。いわゆるボックスダイアグラムを、最初に描いたのは、エッジワースではなくパレートである。本稿は、エッジワースのダイアグラム特有の方法とビジョンの可能性を具体的に示す。エッジワースは、取引平面をボックス内に限定せず、取引者の契約の拡張性を許容している。すなわち、取引者の契約関係が、ボックス内の内点解に限らず相互の行動を通じてジャンプ、サイクル、スイッチ等を引き起こす可能性を考慮していた。つまり、契約の不決定性を考察し、市場の競争メカニズを補完する具体的な制度を分析する契約モデルを想定していた。つまり、エッジワースは、『数理心理学』(1881)およびその後の彼の多数の論文を通じて、契約主体間の戦略的相互依存とそれを補完する制度設計の視点を現代の経済学に脈々と伝えた。このようなエッジワースの契約モデルの有する現代経済学への影響を学史的に理解することで、ミクロ経済学の思想的理解が大幅に拡がる可能性があるが、それだけに慎重に議論を構成している。
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今後の研究の推進方策 |
次の3点を推進する。 1)「なぜエッジワースはエッジワースボックスを描かなかったか?制度設計の視点の現代経済学への静かなる浸透」 “Why didn't Edgeworth draw an Edgeworth box ? Dissemination of institutional design perspectives into modern economics”を作成する。「特定の代表的表現(a single representative-particular)」というアプローチを、エッジワースは想定していた。そこで契約の不決定性理論を、彼の本来の意図や構成に即して明らかにする。 2)エッジワースの文献目録の英語以外の言語で書かれた、論文等の邦訳の作成 3)Edgeworth (1881) (Mathematical Psychics)の翻訳を行う。できれば解題を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより、国内外の出張が計画どおりには進まなかったため。
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