研究課題/領域番号 |
20K01583
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
森岡 真史 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (50257812)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 貿易国家独占 / ソヴェト政府 / 利権供与 / ブロンスキー / 商工人民委員部 / 最高国民経済会議 / 私的商業 |
研究実績の概要 |
ネップ期の経済政策の革命期との違いを明らかにするための準備作業の一環として,革命直後の時期の商業政策,とりわけ外国貿易政策の研究に取り組み,次の点を明らかにした。 第1に,ソヴェト政府は第一次世界大戦の参戦国の多くが採用した貿易の国家統制に,自らの政治的目的を達成する手段としての恒常的役割を与えたこと,第2に,輸入すべき罪の決定を優先しそのために必要な外貨獲得に輸出を従属させる原理を確立したこと,第3に,世界革命の利益を名目として自国の国家的な利益の功利的追求を正当化したこと,第4に,通商再開の条件として,銀行および工業の国有化に加えて貿易の全面的な統制を認めるよう西欧諸国に要求したこと,第5に,西欧諸国の進んだ生産力を導入するために資源開発や鉄道建設などに関わる利権供与を西欧諸国に提案したことである。 この時点では,革命後に縮小した貿易の多くの部分は地方の政府機関や私的商人によって担われており,政府の貿易統制はいまだ実効的ではなかった。また,ソヴェト政府による利権の提案は,経済的および政治的なリスクの大きさゆえに,西欧諸国の積極的反応を呼び起こさなかった。しかし,ソヴェト政府が貿易という商業的活動をマルクス主義のイデオロギーに基づいて国民経済の社会主義的改造の手段と位置づけたことは,その後のソ連経済の発展にとって重要な意味をもっている。というのも,ソヴェト政府は,ネップ期には,国内では自由売買と私的商業の復活を認めたものの,貿易については,共産党内の緩和派を制して国家独占を堅持したからである。五カ年計画と強制集団化の時期において貿易の国家独占が工業化に必要な輸入を実行するための梃子として内実を伴って機能したことからも,1918年半ばまでの貿易の国家独占の形成過程を理解することは,ネップ期の市場化政策の意義と限界を評価するうえで,不可欠な要素であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1に,大学においてコロナ禍のもとでの授業方針策定を含む諸対応にあたる役職についており,オンライン授業の実施,対面授業の部分的な再開,学生・教員への各種支援などの検討に,通常の年をはるかに上回る行政的な業務負担が発生したこと,第2に,コロナ禍による移動の制限等により,予定していた国内外での資料収集が行えなかったこと,以上二つの事情により,遺憾ながら2020年度の研究の遂行に一定の遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
大学の役職については2020年度で任期が終了したため,時間的な制約は緩和される。資料については,ILLやオンライン上でアクセス可能なものの増大により,移動の制限をある程度まで補うことができる見通しである。これらをいかして研究時間と資料を確保し,できる限り2020年度の遅れの回復に努めることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料収集のための調査出張を見合わせざるをえなかったために残高が生じた。この部分については,別途の資料購入やILLの費用にあてる予定である。
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