研究課題/領域番号 |
20K01587
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
中村 信弘 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (90323899)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | FBSDE / ベイズ推定 / 2次拡散確率ボラティリティ / VIX、VVIX / 信用デリバティブ / ジャンプモデル / 金利期間構造推定 |
研究実績の概要 |
統計的学習に基づく金融時系列の変動過程のベイズ推定に関する研究を行った。主要な成果は、以下の通りである。(1)金融商品の価格は、通常、無裁定原理から導かれる偏微分方程式(PDE)の解となり、これが解析的に求められる場合について、統計的推定が行われていた。本研究では、解析解が得られない場合について、PDEを有限差分法で数値的に解きながら、観測される価格からベイズ推論により、金融時系列モデルの推定を行うというアルゴリズムを開発した。実証事例として、S&P500指数、VIX(解析解あり)、VVIX(PDEの数値解法)に対する2次拡散確率ボラティリティモデルの推定を試み、本アルゴリズムが適用可能であることを明らかにした。様々な資産クラスの分散リスクプレミアム、分散の分散リスクプレミアムの分析に活用可能である。(2)前進・後退型確率微分方程式(FBSDE)で記述される統計モデルでは、準線形放物型非線形偏微分方程式の解で後退変数の前進変数に適合した解を特徴付けることができることが知られている。本アルゴリズムを用いると、このFBSDEに従うモデルの推定が可能となる。まず、手始めに、線形タイプの解析解が求められる統計モデルで、本アルゴリズムを用いてPDEを解いて推定した結果と突き合わせて推定結果が一致することを確認した。金融における具体例として、CIRモデルに基づく金利の期間構造モデル、構造型信用リスクモデルでよく用いられるMertonモデル、誘導型信用リスクモデルによる信用デフォルトスワップ、BismutのLQ制御問題を取り上げ、推定アルゴリズムの実行可能性を確認した。更に、ジャンプのある金融時系列のFBSDEでは、積分偏微分方程式(IPDE)で解の特徴づけがなされるが、この簡単な例としてCIRモデルにジャンプがある債券モデルで、本アルゴリズムの実行可能性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い、研究成果を挙げることができており、研究成果は学会で報告を行っている。研究に必要なデータも概ね、購入できており、それらを使って更なる研究を継続発展させることができる状況にある。 統計的学習の方法論として、観測量に付随する偏微分方程式や常微分方程式の数値解法を組み合わせた新たなベイズ推定の方法を開発した。本研究の波及効果として、FBSDEで特徴付けられるファイナンスの諸問題、例えば、原系列と派生証券の相互作用がある場合の派生証券の価格付け問題、マーケット・インパクト問題、再帰的確率微分効用、クレジットリスクのカウンターパーティリスク(XVA)などに応用可能である。 現在のところ、自己励起的ジャンプをもつ信用リスクモデルで、ソブリン債、ソブリンクレジットデフォルトスワップ(CDS)を観測量にした推定を試みているところである。
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今後の研究の推進方策 |
機械学習、統計的学習理論を用いた金融時系列の推定に関する文献調査を継続する。FBSDEで特徴付けられるファイナンスの諸問題に、本研究で開発したPDEに基づくベイズ推論の手法を適用し、研究を進めていくことを計画している。一例として、金利の期間構造モデルで、金利と価格付け対象である債券(コンソル債の利回り)の相互作用があるような確率金利モデルを取り上げ、統計的推定が可能かどうか検討する。 更に、FBSDEにジャンプが加えられた統計モデルの推定に関しては、ポアソン型ジャンプをもつCIRタイプの金利モデルで、積分偏微分方程式(IPDE)を数値的に解きながら、ベイズ推定を行い、金利の期間構造推定を行う研究を遂行したが、より一般的なジャンプFBSDEで、同様の方法が適用可能か検討する。 ジャンプを含むアファイン型の金利モデル、信用リスクモデル、確率ボラティリティモデルなどでは、PDEは常微分方程式(ODE)に帰着するので、ODEの数値解法をベイズ推定に組み込んだ統計的推論が可能と考えられる。従来、解析解が得られないモデルでは、推定が困難であったが、この方法を用いると適用範囲が広がることが予想されるため、応用の可能性を探求する。 また、資産価格理論における関連研究では、低リスク・アノマリー問題、歪度リスクプレミアムの推定などを取り上げる予定である。
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