本研究では2004~07 年度基盤(C)、2008~12 年度基盤(B)、2013~15 年度挑戦的萌芽研究、2015~18 年度基盤(B)の成果を踏まえ、以下の二点にテーマを絞った。 (研究1)ではKamai and Kanazawa (2016)より精密でニュアンスに富んだ解析を可能にするため、メーカー対リテイラーごとの戦略的な行動をナッシュ・バーゲニングを用いてモデル化し、チャンネルごとの競争状態を構造モデルによって表現する手法を提案し、実証研究を行った。強力なリテイラーは自らの利益を最大化する以外の目的にも小売価格を用いる。たとえば取引メーカーからの卸売価格の値上げの要求に備えて、同カテゴリーの製品を他の複数のメーカーとあらかじめ調達し、卸売価格値上げ要求に伴う当該製品の小売価格の上昇、それに伴う販売・利益の減少を他社製品の売上拡大によって補う準備をし、またその準備の事実を交渉の際に持ち出し値上げ要求に対抗するであろう。店舗ごとの販売情報システムの充実に伴った近年登場した巨大で強力なリテイラーの行動を理解するため(研究1)ではまず強力なリテイラーが小売価格と卸売価格の両方を戦略的に用いる場合のメーカー対リテイラーごとのチャンネルの力関係を調べるより現実的かつ精確な構造モデルを提案した。 (研究2)では、離散選択問題の基礎に立ち返り、より相応しい幾何学のもとでのモデルの理解とそれに整合的な推定手法の提案をする。このテーマはより基礎的・挑戦的なものとなった。ロジットだけでなくプロビット、ネスティッド・ロジット、ランダム係数ロジット等の他の有力なモデルが(J-1) シンプレックス上でAitchison Geometryを用いてどのように表現されるかを調べた。
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