研究課題/領域番号 |
20K01604
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
加藤 真紀 学習院大学, 付置研究所, 教授 (80517590)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高等教育 / 大学教員 / キャリアパス / 留学 / 外国学位 / 帰国 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、外国学位を持つ日本人大学教員のキャリアの特徴を留学と帰国の2種類の選択から実証的に明らかにすることである。2020年度の前半は主に高技能労働者の国際移動に関する文献調査や情報収集および学校教員統計調査の2次利用データ申請を進め、後半はこれらを用いて実証分析に取り組んだ。コロナ禍で国際移動が大きく制限される中で、過去の国際移動を扱う研究の位置づけを考えつつの取り組みとなった。 実証分析を通じて、本研究の目的の1つである、外国学位を持つ日本人大学教員のキャリアの特徴が、日本学位や外国籍を持つ教員との比較を通じて明らかとなった。具体的には、日本人大学教員が外国学位を取得した場合に、国内学位を取得した場合と比較して職階や賃金が高いことが示された。もっとも外国学位や外国籍を有する大学教員の増加は鈍く、既存研究が予想したような日本の大学教授市場の国際化が著しく進展したとは言い難い状況も明らかとなった。これら結果を論文として執筆中であり、学会等での日本語での発表と英語論文としての国際誌への発表を予定する。 実証分析を通じて、外国学位を持つ日本人大学教員は若手職に少なく教授職に多いという特徴が示された。ここからは、外国学位を持つ日本人教員のアカデミックキャリアパスは日本学位を持つ教員とは大きく異なる可能性が示唆される。この点に関しては、その背景を日本の大学教授職市場の大きな特徴であるインブリーディングも含めて検討し、発展的内容として論文や学会等での発表を考えている。 さらにデータ取得までの期間に、文部科学省が実施したスーパーグローバル大学創成支援事業に採択された37大学の評価データを使用し、外国学位を持つ日本人教員と彼らが属する大学の留学生数や日本人学生の留学参加との関係を分析した。この結果は日本語論文として投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3年間の研究期間を予定し、1年目は文部科学省が実施する学校教員統計調査の2次利用データを用いて留学選択の結果としての大学教員の外国学位取得によるキャリア分析を予定していた。本研究の目的は同調査の個票を用いて初めて達成されることから、データ取得は非常に重要なプロセスと考えられた。過去の申請ではデータ入手に時間を要したこともあったが、今回は迅速に対応頂き、11月中旬にはデータを入手した。もっとも入手できたデータは10年4時点であり、当初計画していた長期間の時系列変化を見るには十分な長さがないことや、データ特性からパネル化できないことが判明した。しかしデータの定義や追加情報などの複数回の問い合わせにも丁寧に対応いただき、大きな問題もなくデータ整備と分析を開始することができた。 分析ではデータ特性から、当初計画したようには進まない箇所もあった。その1つが給料月額ではなく、生涯賃金を用いた分析である。生涯賃金は給料月額や職名別の平均昇任年齢等を用いてシミュレートした結果を用いる予定だった。しかし前述のように、外国学位を有する日本人教員のキャリアパスは日本学位を持つ教員とは大きく異なり、若手職を経ずに教授職から日本の大学教授市場に参入することが明らかとなった。日本の大学教授市場参入時までの期間が長く、その間の賃金計算が難しいことから当初計画していたような生涯賃金を用いた分析は難しいと判断された。また外国学位を有する日本人教員の人的ネットワークの広さから職場異動が多い傾向を想定していたが、実際は定年退職での退出が多いなど想定と異なることも分かった。このように当初計画を適宜修正しつつ分析を進めてきたが、大きく見ると、順調な進捗と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目である2021年度は、日本人の留学生が学位を取得した後の帰国選択を分析する予定である。データは米国国立科学財団(NSF)による調査結果(米国で社会科学か自然科学分野の博士号を取得した者に対する追跡調査(Survey of Doctorate Recipients: SDR))を使用する。この調査のうち国外居住者を対象に含めた2013年の調査結果を使用し、元日本人留学生のうち大学教員になった者の、帰国者と滞在者のキャリアの違いを2021年度に実施した分析手法を参考に分析にあたる。 2020年度の分析は日本の大学教員を対象とし、このうち外国学位は学士や博士などの種別が分からないため、2021年度の分析との比較には慎重にならざるを得ない。よって2021年度の分析はNSFのデータ内での分析に留まるが、2020年度の解釈につながるような知見を得ることを目指す。2021年度前半はオンラインによる学会参加や米国の受入れ留学生に関する文献を調査し最新の知見の収集に努める。後半はこの結果を基に実証分析を行い年度内に論文執筆を行う。 また2020年度の分析結果のうち既に論文に取りまとめた分は、論文の投稿と掲載を目指す。さらに発展的テーマである外国学位を持つ日本人大学教員が若手職に少ない背景に関しては、さらなる分析を実施し、論文としての取りまとめるや発表を試みる。 さらに、これらが順調に実施された場合は、前倒しで、2022年度に予定していた日本人留学生の帰国がキャリアに与える影響を他国との比較を通じて明らかにするための文献調査や学会を通じた情報収集を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国際学会への渡航を伴う参加がオンライン開催になったことなどにより使用額が変更となった。
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