研究実績の概要 |
本研究では、労働市場において不均衡、すなわち失業を明示的には扱うことで、既存の研究で考察された国際間の経済分析がどのように修正されるか、この点について答えるものである。不況状態を捉える理論分析の枠組みに、国際間の産業構造を内生的に導入することで、国際化の進展を通じた雇用率や産業構造・生産拠点の変化などの相互依存関係を動学的な枠組みにおいて捉えることができるモデルの構築を試みる。本年度は以下8本の論文をまとめた。労働市場に摩擦を導入し失業を内生化した論考1, 5, 6、小国解放経済モデルにおいて貨幣的不況が存在するモデル分析をおこなった論考2、国際間の生産拠点と成長率を分析するうえで、議論の前段階として、完全雇用下モデルでの論考3, 4, 7、金融市場の不完全性によって内生的に景気循環の発生メカニズムを分析した論考8を構築した。具体的には以下の通りである。 論考(1,6)では労働市場と金融市場において摩擦が存在することで、失業率を明示的に扱えるだけでなく、バブルが内生的に発生するメカニズムを導入できた。 論考(3,4,7)では地域間で生産拠点と研究開発拠点が企業によって自由に選択できるモデルを構築し、各企業の生産性成長(プロセスイノベーション)への投資が、政府の関税政策によってどのように影響を受けるか、また海外からの輸入競争によって立地パターンや経済成長、技術格差に与える効果を分析した。 論考(2,5)では資産選好の強さから生じる不況モデルを構築した。2は小国解放経済における交易条件と総需要の関係、5の研究では資産選好による経済停滞からの失業と、労働市場の摩擦による構造的失業を同時に扱い政策効果がどのように修正されるかを分析した。 論考(8)は経済主体の異質性に注目し、特に様々な起業家と労働者が存在する2階層の経済のもとで、経済変動が内生的に存在する可能性を示した研究になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究課題に従って以下の8本の論文をまとめた。 論考1“Asset Bubbles, Unemployment, and a Financial Crisis”Journal of Macroeconomics、2020年9月。論考2“A Simple Aggregate Demand Analysis with Dynamic Optimization in a Small Open Economy”Economic Modelling、2020年9月。論考3「関税政策、産業集積、生産性の内生的成長」国民経済雑誌、2021年1月。論考4“Import Competition and Industry Location in a Small-Country Model of Productivity Growth” Review of International Economics、2021年(出版予定)。論考5“Structural Unemployment, Underemployment, and Secular Stagnation” CESifo WP 8318、2020年5月。論考6“Asset Bubbles, Unemployment, and Financial Market Frictions” DP 1096, ISER 2020年8月。論考7“Demographic Structure, Knowledge Diffusion, and Endogenous Productivity Growth”DP 1113, ISER 2020年12月。論考8“Financial Destabilization”DP 1118, ISER, 2021年2月
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