研究実績の概要 |
本研究の課題は、アフガニスタン政府が近年その豊富な鉱物資源の開発を通じて経済成長を促進するために行ったアイナック銅鉱山の開発の開始に伴う、近隣村の強制移住の効果とその最適な補償政策に関する実証的研究である。アイナック銅鉱山は世界最大級の銅埋蔵量を持つ銅鉱山であり、この開発プロジェクトに地理的に直接干渉する一つの村の全住民が強制的に移転された。本研究の目的は、この強制移住がこれら世帯の社会経済状況へ与える長期的な影響の分析と、これら世帯への望ましい補償政策および社会的ネットワーク再構築に必要な政策を実証的に明らかにすることであるが、本年度はこのうち、望ましい補償政策についての分析を中心に行った。そこでは、潜在的に想定可能なさまざま補償パッケージに対する住民の選好を特定するために、ランダム化コンジョイント分析を用いた。その結果、被災家族は満足のいく補償を提示されておらず、そのため、彼らの多くは補償パッケージを受け入れることに消極的であることや、補償を受け入れるかどうかの判断に影響を与えやすいのは、金銭的支援(一括払いかローン)と農地であることなどが明らかになった。これらの研究成果は、Khan, G. D., Yoshida, Y., Katayanagi, M., Hotak, N., & Caro-Burnett, J. (2021). Mining-induced displacement and resettlement in Afghanistan's Aynak mining community: Exploring the right to fair compensation. Resources Policy, 74, 102285. としてまとめられ、公刊された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、鉱山開発に伴う住民の強制移住がこれら住民の社会経済状況へ与える長期的な影響の分析と、これら世帯への望ましい補償政策のあり方の究明、および社会的ネットワークの再構築のために必要な政策の実証的同定の三つに大別されるが、このうち強制移住を受けた世帯に対する望ましい補償政策のあり方については上述の通り、Khan, Yoshida, Katayanagi, Hotak, & Caro-Burnett (2021) としてまとめられ、公刊された。今後は強制移住の長期的影響の分析について研究を進めていく。分析に必要なデータについては、アフガニスタン国における政情変化が起こる以前にフィールド調査が終了しており、今後はこうしたデータに基づいた分析と論文執筆を進めていく予定である。
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