研究課題
日本の低成長の要因を分解すると、他国と比して、全要素生産性(TFP)の伸びの低下の他に、生産年齢人口の減少が著しいことが明らかとなっている。日本は人口減少、高齢化といった人口動態の変化に直面し、経済成長の重要なドライバが弱まりつつある。本研究では、こうした人口動態の変化がどのようなメカニズムで経済成長に影響を与えるのかをミクロレベルの膨大で詳細なデータを用いることで実証的に分析する。また、OJTやOff-JTにより蓄積する人的資本とICTが生産性に与える影響も分析する。2020年度は、産業レベルのデータを用いた分析では、最新の日本の生産性がどの程度の水準にあるのかを米国のほかドイツなどの欧州諸国をベンチマークとした上で、比較を試みた。結果、日本と米国の比較から、製造業における労働生産性の日米格差が 1997 年と比べ、若干拡大していることが明らかになった。ミクロデータを用いた研究では、労働生産性と IT 投資比率の関係を分析した。両社の間にはプラスの相関が見られたが、IT 利活用の目的のあり方や IT 化に対応した人材育成策の状況は、生産性や IT 投資と明確な関連性が見られなかった。IT 利活用や人材育成などが生産性と明瞭な関係を持たない背景には、IT 化に対応した業務プロセスの見直しや人事評価の変更など、組織全体で実施する必要のある取り組みが IT 投資と必ずしも連動していないという問題が存在することを指摘した。この他、コロナ禍における働き方の変化と生産性の関係に関する分析や2021年度以降の研究のために、政府個票データを申請し、入手した。
2: おおむね順調に進展している
人口動態の変化は、どのようなメカニズムで経済成長に影響を与えるのかについては、計画書通り、2020年度中に必要な個票データの申請が終了した。人口動態が変化している中で、新技術の導入はマクロパフォーマンスにどのような影響を与えるのかについては、関連する分析に取り組み、ワーキングペーパーなどとして公表した。おおむね研究計画通りに進展している。
研究計画書通りに、2021年度はデータ整備、推計プログラムの構築、推計及び論文執筆を行い、分析成果を学会やセミナー等で発表する。人口動態の変化が経済成長に与える影響については、早期退職データを入手できたため、それらをショックと捉え、高齢労働者が企業・事業所のパフォーマンスに与える影響に関して分析する。人的資本に関する研究については労働者へのOJT、OFF-JTの時間割合に関するWebアンケート調査を実施し、産業別のそれらの割合を算出し、人材投資とICTなどの新技術、生産性の関係を引き続き分析する。
予定していた海外での研究発表の機会がなくなったため。2021年度に計量分析ソフトウェアのアップデート、高性能ラップトップPCへの使用を検討している。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 6件) 備考 (1件)
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https://researchmap.jp/g0000208044