研究実績の概要 |
研究目的は、開発途上国において「持続可能な開発」の可能性を解明することにある。 (1)ハワイ大学への留学渡航(2023年7月)前には、小国開放ハリス・トダロ(HT)モデルの農村部門に資源財だけでなく農業生産もあるモデルでの新しい発見は何かを探った。資源財輸出税率引き上げにより、資源財生産から解放される労働が、農村の農業に吸収されるため、都市インフォーマル部門の拡大効果が弱まること以上の発見はないように思われた。 (2)そこで今後は、より広範な「構造変化」のモデルを用いる研究に進むこととした。 ①「小国開放農工2部門モデルでは、農業生産性が改善されると工業の発展が必ず抑制される」というMatsuyama(1992)の結果を批判的に検討し、独自のモデルで「農地肥沃度が大きく低下するなら、小国開放経済であっても工業化が促進されうる」ことを確認した。 ②これを一般化して、再生可能資源ストック(農地、森林、魚群等)を用いる1次産業での生産性の改善が「構造変化」を通じて工業の拡大を促進するかを、新たな農工2部門モデルを構築して分析した。現代の開発途上諸国が1次産品の生産・輸出に大きく依存しているというBarbier(2005)の指摘を想起すれば、現実的に重要な分析である。そして、既存研究(Lopez,2007,2010,2013; Antoci et al., 2012,2014,2015)で扱われた状況に比べて、工業資本蓄積のインセンティブが弱く、かつ自然資源ストックがゼロとなりやすい状況でも、「持続可能な発展」の成長経路が存在しうることを明らかにした。 (3)都市インフォーマル部門の拡大要因として人口増加も重要との国際学界での認識を踏まえ、人口変化と経済成長の関係の分析を試みた。ラムゼイ型最適成長モデルで人口減少下での均衡経路を導出する論文を作成し、内外の学会、セミナーで報告した。
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