研究課題/領域番号 |
20K01648
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
坂上 智哉 熊本学園大学, 経済学部, 教授 (50258646)
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研究分担者 |
加藤 康彦 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (80331073)
井上 寛規 久留米大学, 経済学部, 講師 (90635963)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 公的年金制度の持続可能性 / 世代重複モデル / 進化計算 |
研究実績の概要 |
研究計画初年度では、理論モデル班とシミュレーション班のそれぞれにおいて以下の研究を進めた。 まず、理論モデル班は、少子高齢化における持続可能な公的年金制度として、高い資産所得を得ている老年世代も保険料を負担する世代重複モデルの構築を進めた。特に、高所得老年者が負担する保険料との関係で、高所得世代の生涯効用がどのように変化するかを分析した。高所得老年者の保険料負担の増大は、若年世代全体の保険料負担を軽減する効果をもち、高所得若年者においてもそうである。このとき、高所得老年者の保険料負担がわずかであれば、その増加によって若年世代の効用が大きく増加する。しかし、高所得老年者の保険料負担がある一定額を超えると、老年世代の消費の減少効果が大きくなり生涯効用が減少に転じる。このことから、高所得者の生涯効用を最大にする高所得老年者の保険料が存在することを明らかにした。一方、低所得者の生涯効用は、高所得老年者の保険料負担が増加するにつれ大きくなる。以上のことから、高所得者と低所得者の間でパレート効率的な負担水準が存在し、それは高所得者の生涯効用を最大にする保険料であることを明らかにした。 次に、シミュレーション班について、本年度は進化計算の一種である粒子群最適化法(Particle Swarm Optimization)の経済モデルへの応用を進めた。進化計算として最も有名な遺伝的アルゴリズムは探索対象の変数間に相互依存がある場合に探索効率が落ちることが知られており、経済モデルの解法としては不都合な点といえる。そこで、鳥や魚の群れのふるまいを模倣して開発された粒子群最適化法を採用することにより、この問題をクリアすることとした。さらに、通常の粒子群最適化法の探索における情報共有の仕組みに複雑ネットワークの構造を利用した拡張アルゴリズムを採用することにより、更なる探索性能向上を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は賦課方式公的年金制度の持続可能性を示す世代重複モデルを構築し、パレート効率的な保険料の存在を確認できた。このモデルでは高所得者と低所得者が1対1で外生的に分布している状況を想定しているのだが、次年度はこのモデルに教育システムを導入するこで、所得分布を内生化する作業に進むことができる。 また、シミュレーション分析においても粒子群最適化法を用いて従来の遺伝的アルゴリズムの欠点を克服できることを明らかにすることができた。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
理論モデル班は以下の研究に取り組む。まず、初年度の研究成果をまとめ、国際学術誌に投稿する。次に、初年度に高所得者と低所得者の人口を外生的に与えていたが、モデルに新たに教育選択を組み込むことで所得分布を内生化する。 また、シミュレーション班では、すでに構築したアルゴリズムを、理論モデル班が作成した世代重複モデルに当てはめる作業に進む。 なお、シミュレーション分析では、教育選択の効果に加え、最近のコロナショックを念頭においた外生ショックを与えた場合の、公的年金制度の持続可能性についても分析を加えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症の拡大により、当初計画していた学会出張や研究打ち合わせをすべてzoomにて実施したため、旅費を使うことができなかった。さらに、コロナ感染症の拡大期には学生の学内への立ち入りが制限されたため、学生アルバイトもほとんど活用することができなかった。 次年度以降、感染の状況を見ながら学会等への旅費に充てるとともに、学生アルバイトも積極的に活用することを予定している。
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