本研究では、わが国の寡占化の現状をある特定の産業に焦点をあてつつ、コモン・オーナーシップ(資本所有の共有化)の観点から定量的に評価することを目的にした。資本所有の共有化が市場競争を歪めるという仮説は古くから存在するものの、わが国でのエビデンスの蓄積は乏しい。とりわけ本研究では、ある特定の産業に注目し、共同販売や経営統合といった環境下における寡占化の影響とそのインパクトについて、競争阻害効果を定量的に計測する手法を提示し、わが国の具体的な事例に当てはめて応用することを通じて、エビデンスが不足するわが国の現状に対し、新たな知見の提供を試みた。例えば、航空産業においては、日本の国内航空市場という特定の市場に焦点を当てつつ、コロナ禍で拡大した共同販売行為の影響を市場競争の観点から分析を行った。既存企業におけるクロス・オーナーシップの果たした役割や、事業提携の慣習が与える影響も併せて推定することによって、既存航空会社と新規航空会社との間の競争関係が、果たして共同販売を通じてどのように変化するかを明らかにした。共同販売が拡大することで、資本所有規制を無効化することが可能になる点を明らかにするとともに、経営統合については、その長期的な影響が短期的な影響を超えて、著しい点も明らかにした。こうした点は、行政における規制や法執行の現行のあり方に対して、一定程度の改善の余地があることを指摘するものでもある。
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