研究実績の概要 |
貧困の問題は古今東西を問わず普遍的な問題であり、先進諸国における貧困は「豊かさの中の貧困」としばしば言われる。我が国においては、コロナ禍以前から子どもの貧困は喫緊の課題の1つであり、コロナ禍以後においても重要な問題であり続けると考えられる。2021年度の研究では、子どもの貧困に焦点をあて、主につぎの2つの研究を行った。 ①生年による違いが貧困に与える影響を分析するため、コーホート効果に着目した子どもの貧困の長期的推移に関する実証研究を行った。具体的には、「全国消費実態調査」の匿名データ(1989,94,99,2004年)を用いて、末子の生年に注目した世帯(コーホート)を説明変数に、コーホートごとに計算した4指標(貧困率、貧困ギャップ率、ジニ係数およびセン指標)のそれぞれを被説明変数とし、回帰分析によりコーホート効果を推定した。主な知見の1つとして、分析対象期間(89年から04年)における子どもの貧困率の上昇は, コーホート効果によるものであることが分かった。つまり、子どもの生年が新しい世帯になるにつれ、対応するコーホート効果は単調に増加することが観察された。このことは、より新しい時期に生まれた子供ほど、貧困のリスクがより高い社会に生まれたことを示唆する。 ②多次元指標を用いた子どもの貧困の計測に関する研究。「日本版General Social Surveys」(2012, 15年)を利用して、多次元貧困率を構築し、暮らしの質を考慮した子どもの貧困率の計測を行った。まずデータの入手ののち、2つの調査間で共通する変数の選択を行った。ついで、貧困率の指標にはAlkire and Fosterによる多次元指標を用い、子どもの生年別の家計類型ごとの多次元指標を計算した。
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