研究課題/領域番号 |
20K01660
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田邉 勝巳 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (90438995)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 貨物車 / 燃費 / 走行税 / 外部費用 |
研究実績の概要 |
本研究は貨物車に対する社会的に望ましい自動車関係諸税とは何かを、対距離課税(走行税)の議論を含めて検証することを目的としている。現在、日本において走行時に発生する税として揮発油税と軽油引取税があるが、走行距離に応じた税を貨物車に導入した国が既にある。貨物車は様々な外部費用を発生させるため、社会的に望ましい税の議論は政策論として重要である。走行税は燃料税に比べて、外部費用に応じたより柔軟な課税ができる可能性がある。一方、外部費用を考慮しない、ある時点における燃料税と同等の税収となる(税収中立的な)距離あたり一定の走行税を燃料税の代わりに導入する政策は実現可能性が高く、この税への移行が与える影響も重要な研究テーマの一つと言える。 2022年度の主な研究成果は以下のとおりである。第一に日本のトラック輸送に関する基礎的情報を整理した。貨物車に関しては家計による利用が多い乗用車とは異なり、様々な企業活動の一環として利用される。そのため、こうした企業活動に関連する情報も貨物車の保有・利用行動の分析では重要と言える。第二に貨物車に関連する需要分析、外部費用に関する既存研究のサーベイを行った。第三に自動車燃料消費量調査のデータに基づき、都道府県別・年度別のパネルデータから、本データから得られた軽油車の燃費に与える燃料価格の影響について幾つかのモデルで分析を行った。本分析では、全車種合計だけでなく車種別での検証も合わせて行った。これに加えて、軽油車に関する単位当たりの燃料消費量、走行距離を被説明変数とする需要モデルを推定した。また、貨物車特有の燃費に影響を与える要因を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は貨物車における自動車関係諸税を構成する購入・保有・利用段階の税のあるべき水準を議論するものである。利用段階の税は燃料税であるが、走行距離に応じた課税が技術的に可能になり、既に貨物車の走行税が導入された国もある。 現在までの研究の進捗状況は以下のように整理できる。第一に貨物車に関する市場や産業の現状、貨物車に関する需要分析、最適な税に関連する研究を幅広くサーベイした。また、後述する分析で利用可能なデータの調査を行っている。第二に、税収中立的な走行税導入のシミュレーション分析を行った。まず、軽油需要関数を推定し、ある時点における燃料税収中立的な距離あたり一定の走行税を燃料税に代わり導入した場合の走行距離や燃料消費量、税収の変化、CO2排出量の変化を求めている。但し、このシミュレーション分析では強い仮定を置いている。更に、税収中立を考える上でガソリン車との税負担のあり方に関する議論も重要であり、これに関連する試算も合わせて行っている。また、自動車燃料消費量から得られるデータによる需要分析にも取り組んでいる。現時点で、本データからの分析結果は良好な結果を得ていないが、車種別にデータを分離できることから、引き続き分析の精度を高める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は日本における貨物車の社会的に望ましい自動車関係諸税について走行税を含めて検証するものである。現在までの進捗状況を踏まえ、今後の研究の推進方策は以下のように整理できる。 第一に貨物車の利用段階の需要分析の精緻化である。軽油需要の分析に関しては一定の成果を得ているが、頑健な推定結果とは言えず、データの改善、モデルの改良が必要である。また、シミュレーション分析で改善するべき点を精査し、実現可能な範囲内で試算結果を改良する。これに加え、燃料税以外の税(保有税など)も全て含めた税収中立的な走行税についても合わせてシミュレーション分析を行う予定である。第二に保有段階の分析である。税を含む保有費用が保有行動に与える影響を分析することで、第一で述べたシミュレーションにおける強い仮定の一部を緩和することができると考えられる。第三に貨物車の外部費用の原単位の整理である。EU域内での自動車の外部不経済の原単位、測定方法などを参考に、現在の日本における貨物車の外部費用の原単位を必要に応じて求めることが必要である。これらのデータは先のシミュレーション分析の結果と組み合わせることで、どの程度の外部費用の削減(増加)につながるか、その概算値を得ることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の進展により当初予定していた海外学会の参加が全て取りやめとなり、旅費関係の支出がなくなった。また、研究の進展が遅く、実証分析で用いるデータの見極めが十分でないことから、データの購入等の支出を行わなかったため。 今後の研究の進展に依存するが、分析において必要と思われる自動車(特に貨物車)に関連するデータベース構築に必要な支出を想定している。具体的には、データの購入、データ構築作業に関連する人件費、などである。
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