研究課題/領域番号 |
20K01674
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
孟 渤 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センター, 主任調査研究員 (70450541)
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研究分担者 |
安藤 朝夫 東北大学, 情報科学研究科, 名誉教授 (80159524)
宇野 公子 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 客員研究員 (80558106)
薛 進軍 名古屋大学, 経済学研究科, 特任教授 (40262399)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 米中貿易摩擦 / グローバルバリューチェーン / 企業異質性 / 付加価値貿易 / 要素所得貿易 / 二酸化炭素排出 / ネットワーク分析 |
研究実績の概要 |
1)グローバルバリューチェーン(GVC)構造を明示的に考慮した応用一般均衡モデルを構築し、それを米中貿易摩擦の分析に適用し、GVC参加者の利得を貿易ルートごとに示した。成果は2022年4月にIDE Discussion Paper 851号に掲載され、WTOなどにより刊行予定の『GVC Development Report 2023』のバックグラウンドペーパーにも選定された。2) GVC上の生産者・消費者行動を同時に扱える二酸化炭素排出責任分担に関する新たなアルゴリズムを開発した。当該アルゴリズムは経済学と環境学を融合させたもので、既存の手法を大幅に改善し、OECDの最新のデータに適用した実証分析は2023年2月のCell姉妹紙のOne Earthに登載された。3)多国籍企業の生産関数、海外直接投資活動を考慮したGVCモデルを開発し、付加価値貿易と二酸化炭素排出を同時に追跡し得る勘定を新たに提示し、OECDデータによる実証分析も行った。分析結果は2022年6月のSustainable Global Supply Chains Discussion Papersに登載された。4)商品に内包された労働の国際移動を考慮したGVCモデルを構築した。また当該モデルを検証するGVCベースのグラビティモデルも開発し、実際のOECDとILOのデータを用いて検証した。結果的に、複雑なGVC上の距離、関税・非関税障壁、共通言語・法律体系などの決定要因の性質は既存のモデルとかなり異なることが分かった。分析結果は2023年3月のIDE Discussion Paper 893号に掲載された。5)多国籍企業と国内企業を明示に区別したGVCベースのネットワーク分析を行い、2023年3月に国連UNCTADの査読付き雑誌Transnational Corporationsに掲載通知を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響で、当初予定の海外現地調査の一部は行うことができず、また国際機関や海外の協力相手の専門家を日本に招聘することもできなかったため、特にモデル検証用の中国と米国のデータ作成に遅れが出た。ただし、Online ZOOM会議を通して、できる限りの努力で基本モデル構築、公表データによる試算は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1)米中貿易摩擦の進展に従って、GVC上のリスク要因もこれまでに構築した各種モデルに導入すべき、サブモデルとしてGVC依存度、GVC強靭化指数の開発を行う予定である。すでにネットワーク理論に基づくGVC中心性・依存度を利用した強靭化指数のモデルを構築し、実際のデータを利用した検証を今後行う予定である。2)米中関係について、これまでの経済と技術面の分析のみではなく、地政学的なアプローチも必要である。したがって、国連投票データや国間のサンクション情報を利用したLogitモデルによる制裁の確率分布を推計し、それに基づくGVC研究も行う予定である。3)環境サブモデルとして、今後越境国境炭素調整措置(CBAM)の実施は避けられない傾向であるため、それにより米中間のGVC上の競争・協力関係も変わるので、CBAMがGVCを通じる効果が分析できるモデルの構築・試算を行う予定である。現時点では国際産業連関ベースのGVCモデルと動学CGEモデルの構築がほぼ完成し、今後は試算を行い、論文作成に集中する予定である。4)米中貿易摩擦の影響について、これまで企業の異質性を考慮したが、その中で、主として企業のオーナーシップ別の情報を利用し、またFDI活動とリンクすることで、多国籍企業の活動を明示的に考慮できた。しかし、現実として、オーナーシップ以外に企業のサイズ(大企業対中小企業)により、外的ショックや政策効果がかなり異なるので、現在では中国の企業のオーナーシップ(国有、外資系、民間企業)とサイズ(大・中・小)の情報を有する産業連関モデルの開発をしている最中で、それに基づく米中貿易摩擦のシミュレーション分析も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、一部の海外現地調査、海外協力者・論文共著者の来日招聘(共同データ作業・執筆作業)はできなかった。補助事業期間を延長したので、今年度を最終年度として、上記の活動を行う予定である。
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