研究実績の概要 |
前年度の研究では,株式を保有している企業が被保有企業の意思決定に影響を及ぼす状況についての分析が十分ではなかったため,この点についての研究を進めた。このような状況では,株式を保有している企業は自身の利益につながるような経営判断を被保有企業に望むことになる。その結果,経営に影響を及ぼす株式保有は株式相互保有と似た特徴を持つようになる。今年度の研究では,このような性質が垂直的市場における様々な企業行動にどのような影響を持つのかに関して分析を進め,より特徴的な状況を模索した。特に,研究開発や生産容量の意思決定への影響に注目し,現在は分析結果を整理している。 また,本研究計画は垂直的市場を扱っており,副次的な成果物として,“Endogenous Transport Price, R&D Spillovers, and Trade”と題する論文を英文査読付雑誌である The World Economy に受理および出版することができた。この論文では,垂直的市場において川上企業が輸送サービスという同質財に関して価格競争を行い,川下企業が限界費用削減投資を伴う数量競争を行う状況を扱っている。分析の結果,川上企業数の増加によって川上市場の競争が激しくなるが,それは必ずしも消費者余剰の増加をもたらさないことが示されている。 また,この副次的な成果で扱った川上市場における同質財価格競争に株式保有の特徴を取り入れ,その影響について分析を進めた。現時点で注目すべき特徴は得られていないが,数量競争との比較を行うなどの準備を進めており,何らかの成果が得られることを期待している。
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