研究課題/領域番号 |
20K01679
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 章 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (10294399)
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研究分担者 |
乃村 能成 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (70274496)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 貧困の連鎖 / 世代間での所得階層移動 / 所得格差 / 所得の不平等 / シミュレーション分析 / 動学的分析 / 人口減少 / 少子高齢化 |
研究実績の概要 |
少子高齢化が急速に進展する日本では、もはやかつてのような高度成長は見込めなくなり、所得分配・経済格差の問題がより重要性を増してきた。とりわけ、親の世代の格差が子の世代に引き継がれるという傾向が強くなってきている。このような状況の中、本研究では「人口内生化世代重複シミュレーションモデル」を所得階層間の移動ができるように拡張した上で、親子間の所得階層の移動確率が1人当たりの効用や人口水準に与える影響について定量的に分析した。 モデルでは、低所得層(高校卒)と高所得層(大学卒)の2つの代表的な家計を導入し、子供が親と同じ所得層になる確率、異なる所得層に移る確率を外生的に与え、子供が親と同じ所得階層になる確率を7割(移動確率0.3)と仮定した。シミュレーション分析の結果、移動確率が0.3から0.5へ上昇し、世代間の階層移動が活発になった場合、総人口に占める高所得層の割合が高まり、経済成長が促進された。ただし、100年を超える長期では、逆に、国民所得の水準が低くなってしまった。これは、出生率が相対的に高い低所得層の総人口に占める割合が低くなることにより、超長期においては、人口減少によるマイナス効果が、高所得層の人口比率上昇によるプラス効果を上回るためである。 また、無限の将来世代を含む、すべての世代を考慮して、特定の改革が経済厚生(効用)を改善または悪化させるかどうかを厳密に表す指標であるLSRAを使って、無限先の将来世代も含めた1人当たりの効用の変化を計算した。移動確率が0.3から0.5へ階層移動性が上昇する場合、1人当たり約22万円相当のプラス効果があった。その反面、移動確率が0.3から0へ階層移動性が低下する場合、1人当たり約29万円相当のマイナス効果があった。この結果は、世代間の所得階層の移動性を高める政策は、パレート改善を達成する、社会的に望ましい政策であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「人口内生化世代重複シミュレーションモデル」を、親と子の間での所得階層の移動をモデルにおいて外生的に与えることができるように拡張した。この拡張されたモデルを用いて、親と子の間での所得階層の移動性が高くなった場合と低くなった場合に関して、一人当たりの厚生や将来の人口動態に与える影響について分析を行った。この研究成果をまとめた論文は既に英語で書き上げられ、英語のネイティブによる英文校正も終え、査読付きの英文学術雑誌に投稿されている。
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今後の研究の推進方策 |
政府による公教育の充実により、世代間の階層移動性が高まれば、生産性の高い労働者が増え、1人当たりの効用は上昇する。これまで貧困により十分な教育を受けることができず、開花できなかった能力のある子供の才能が生かされるようになり、社会全体の損失を回避することができるものと考えられる。北欧諸国は、「大きな政府」を持ち、社会保障制度が充実していることで知られているが、例えば、デンマークでは幼稚園から大学まで、教育費は無料である。少子化に伴い、子供の絶対数が急減する現在の日本では、公教育の充実は重要性を増している。内閣府による最近のアンケート結果によれば、子どもをもつに当たって主な懸念材料となっているのが、育児の費用、特に子どもの教育費であることから、公教育の充実は少子化対策としてもその効果が期待できる。 このため、現在の本研究のモデルでは、親と子の間での所得階層の移動を「外生的に」与えることができるように拡張されているが、教育投資を考慮することにより、所得階層の移動をモデルにおいて「内生的に」決まるように「人口内生化世代重複シミュレーションモデル」を拡張する予定である。この拡張されたモデルを用いて、政府による公教育の充実が各家計の厚生や将来の人口動態に与える効果を定量的に分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
シミュレーション分析に伴う計算を実施するために、計算速度の速いデスクトップ・パソコンを購入する予定であったが、期待に沿うような計算速度を有する機種が見つからなかった。このため、(パソコンの計算処理スピードの改善は日進月歩であることも考慮して)購入を1年遅らせることにした。
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