研究課題
2022年度は、女性活躍推進への取組みが、特許の質で測ったイノベーション・パフォーマンスを高めるかどうかを確認した。同時に、女性活躍に関する情報開示との関係についても試行的な分析を行った。具体的には、有価証券報告書をはじめ、統合報告書やプレスリリースなど各種の開示資料から、企業ごとに女性活躍に関連する単語の使用頻度を計算し、それと、多様性に関する部署の有無や保育手当の有無など女性活躍推進に資すると考えられる制度の導入状況との関係を調べた。さらに、女性管理職比率や女性発明者比率など量的な側面から見た実際の活躍状況との関係についても確認した。そのうえで、女性活躍に関する取組が特許の質で測った研究開発パフォーマンスを高めているかどうかを明らかにした。分析の結果、多様性の専門部署のある企業や女性管理職比率が高い企業ほど、有価証券報告書において女性活躍に関する単語の使用頻度が高いことが分かった。すなわち、女性活躍推進に関する情報開示において、ウォッシングのような現象は生じていないことが示唆される。他方で、有価証券報告書以外での開示頻度については、女性管理職比率や多様性の専門部署の有無等との有意な関係はないことも分かった。記載の自由度が高い開示資料における情報の信頼性は、有価証券報告書ほど高くない可能性がある。さらに、有価証券報告書での女性活躍に関する開示頻度が高い企業ほど、被引用件数で測った特許の質が高いことも明らかとなった。このことは、女性活躍推進がイノベーションの促進に寄与することを示唆している。他方で、分析からは、女性活躍推進への取組みが、女性発明者比率を高める効果はないことも確認された。これは、女性活躍推進の取組みが、現在雇用している女性発明者の生産性を高めることで、特許の質の向上に寄与していることを示唆する結果である。
3: やや遅れている
グリーンウォッシュなど企業が開示する情報の信頼性に関する注目が高まっていることから、女性活躍に関する情報開示状況も含めて研究を行うこととした。これにより、研究の質は高まったが、その分、データ整備や分析に時間を要することとなった。しかし、新たに追加した分析に必要なデータの整備は2022年度中に大部分が完了し、試行的な分析を行うこともできた。
2023年度は、22年度に新たに構築した情報開示状況に関するデータも活用しつつ、実証分析の質を高めていく。特に、研究会や学会発表等を積極的に行い、得られたコメントを分析に反映させていくことで、分析の妥当性の向上や精緻化を図る作業が中心となる。
研究期間中に生じた新型コロナウィルスの蔓延により、企業のインクルージョンに関する情報収集のソースを、インタビュー調査やアンケート調査から、商用データベースへと変更した。2022年度はそれに加えて、企業が開示する情報の信頼性に関する注目が高まっていることを考慮し、新たに、企業が有価証券報告書やプレスリリースなどで開示している女性活躍推進状況に関する情報を収集し、その情報も含めた分析を行うこととした。これにより、研究の質は大幅に高まると期待されるが、データ整備や分析に時間を要することとなり、当初予定していた学会発表等を次年度に回すことにした。したがって、次年度は主に学会発表や分析結果の妥当性に関するインタビュー調査等に助成金を使用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
日本経営学会誌
巻: 52号 ページ: -
令和4年度特許庁委託調査事業『我が国の知的財産制度が経済に果たす役割に関する調査報告書』
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Resilience and Ingenuity: Global Innovation Responses to Covid-19 (Fink, C., Meniere, Y., Toole, A. A. and Veugelers, R. eds.)
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10.1016/j.ijindorg.2022.102839