本研究は経済実験から抽出される曖昧性態度の外的妥当性を検証することを目的としている。幅広い属性を持つ被験者を対象とした大規模なオンライン実験から曖昧性態度を抽出し、曖昧性態度と現実行動との関連を実証的に検証する。 本年度は、昨年度実施したweb実験から得られたデータをもとに論文を完成させた。web実験では、水害に関連した自然的な曖昧性に対する曖昧性態度の抽出、および、水害関連の行動データを取得した。また、先行研究で測定されてきた人工的な曖昧性(従来的な金銭くじに関連する曖昧性)に対する曖昧性態度の抽出も行った。曖昧性態度は、曖昧性回避度と曖昧性によってもたらされる確率非敏感度(この指標が高いほど確率を識別できない)を測定した。 得られた結果は以下である。1) 人工的な曖昧性と比較して、自然的な曖昧性のほうが、人々は確率を識別できない傾向がある。2)利得領域では曖昧性回避的であり、かつ、人工的な曖昧性よりも自然的な曖昧性に対して曖昧性を強く回避する傾向がある。一方、損失領域では曖昧性愛好的であるが、自然的な曖昧性と人工的な曖昧性の間でその程度に差は見られない。3)認知反射能力が低い人ほど、曖昧性下において確率を識別できない傾向にある。4)認知反射能力が高い人については、確率を識別できない人ほど、洪水に対する備えをしない傾向がある。しかし、曖昧性回避(愛好)と行動には統計的に有意な関係は見られない。この結果は、曖昧性下での予防行動は、曖昧性認識あるいは曖昧性下での確率理解と関連することを示唆するものである。 本年度は、熱中症を対象として、確率および曖昧性認識と熱中症予防行動との関連を検証することを目的としたweb実験を実施した。現在のところ論文は完成に至っていないが、速やかに論文を完成させ、学術雑誌へ投稿する予定である。
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