研究課題/領域番号 |
20K01703
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
玄田 有史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90245366)
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研究分担者 |
川上 淳之 東洋大学, 経済学部, 准教授 (20601123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 副業 / 契約 / 多様性 |
研究実績の概要 |
2020年代をピークに人口減少の加速化が確実な日本社会において、就業件数の確保・拡大と労働生産性の持続的向上の実現は、喫緊の課題となっている。その際、課題克服の切り札の一つとして重要性が高まると予想されるのが「複業」である。従来、「副業」は本業の補助として位置付けられることが多かったのに対し、今後同一個人による「複合的(multiple)」な仕事(jobs)と技能(skills)の組み合わせの拡大が期待されることを踏まえ、本研究は「複業」の用語に着目する。 それによって労働経済学に複業研究という新たな分析軸の構築を目的とする。本研究では、本副関係にとどまらない複業が、個人と企業にもたらす経済効果とは何か、及び複業が社会全体での労働時間や労働力の効率的・公正的な分配にもたらす影響とは何かを学術的「問い」とし、問いへの答えを多様なデータを用いた多面的な実証分析により追求することを目的とする。これらの実証分析を踏まえ、複業による望ましい資源配分を考察するため実践的なキーワードとして「契約」を挙げる。 実証分析と経済学の契約理論により、複業が経済厚生を改善するための制度と政策を明らかにすべく、契約という観点から具体的な視座と評価を与えることが、本研究の学術的独自性と創造性となる。 本研究では、今後重要性を増す「複業」の用語に着目し、労働経済学に複業研究という新たな分析軸の構築を目指す。複業研究では、(1)本副の関係にとどまらない複業がもたらす経済効果とは何かを個人と企業の両レベルで考察する。その上で、(2) 複業が社会全体での労働時間や労働力の分配にもたらす影響とは何かを、効率性と公正性という観点から研究する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では、政策的インプリケーションを含んだ日本語の学術書を研究期間内に刊行することを一つの主要目的としていたが、研究分担者により『「副業」の研究 多様性がもたらす影響と可能性』(慶應義塾大学出版会)を刊行し、2020年度に達成することができた。 さらに研究計画に示した総務省統計局「就業構造基本調査」などの政府統計の二次利用による分析に向けて、データ申請などの手続きも完了し、利用許可を待っている段階である。またリクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を利用した分析も計画しているが、現在同調査の設計委員会に研究代表者が参画するなど、利用とデータ開発に順調に着手している。 その他、新型コロナウィルス感染症の拡大という事態を受けて、兼業・副業によるものも含むフリーランスへの感染の影響が注目されるところとなったが、労働政策研究・研修機構が実施した緊急調査を用いたフリーランスに関する研究を、研究代表者が行うことになった。それによって本研究課題は、感染拡大の影響も視野に入れたより社会の要請に合致した研究となった。 これらの研究成果は、2021年度から22年にかけて確実に実現する見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
総務省統計局「就業構造基本調査」、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」、労働政策研究・研修機構「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」等を用いて、フリーランス・雇用者の両方を視野に入れた副業・兼業に関する研究をさらに推進する。 それらの研究を通じ、研究計画に掲げた、副業(複業)を行う際の事前的な雇用契約の他、複業先との雇用もしくは事業契約、さらには顕在する契約とならび、暗黙の契約に関する具体的な視座と評価を与えることを目指す。そのため、複業による経済厚生を考察するためのキーワードとして「契約」を位置づけ、副業に関する労働経済研究について実証研究と理論研究の橋架を進めることで、本研究の独自性と創造性のさらなる実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度感染症拡大により学会出張および地域調査等が次年度に延期となったため、その支出に充てるべく、次年度使用額が生じることとなった。したがって次年度は、学会発表および地域調査、さらには調査資料の整理のための謝金などに活用する計画がある。
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