2020年代をピークに今後、人口減少の加速化が確実な日本社会において、就業件数の確保・拡大と労働生産性の持続的向上の実現が、喫緊の課題となっている。その際、課題克服の切り札の一つとして重要性が高まると予想されるのが「複業」のあり方である。 従来「副業」は本業の補助として位置付けられることが多かったのに対し、今後は同一個人による「複合的(multiple)」な仕事(jobs)と技能(skills)の組み合わせとしての複業の拡大が期待されることを想定し、本研究は「複業」の用語に新たに着目する。それによって本研究は、労働経済学に複業研究という新たな分析軸の構築を目的とした。 研究では、二項の本副関係にとどまらない多項的な複業が、個人と企業の双方にもたらす経済効果とは何か、さらには複業が社会全体での労働時間や労働力の効率的・公正的な分配にもたらす影響とは何かを学術的「問い」とした。その上で問いへの答えを多様なデータを用いた多面的な実証分析により追求した。これらの実証分析を踏まえ、複業による望ましい資源配分を考察するため実践的なキーワードとして「契約」も取り上げた。実証分析と経済学の契約理論により、複業が経済厚生を改善するための制度と政策を明らかにすべく、契約という観点から具体的な視座と評価を与えることが本研究の学術的独自性と創造性である。 これらの研究の結果、複数の論文が刊行された他、重要な研究成果である川上淳之著『「副業」の研究―多様性がもたらす影響と可能性』(2021年、慶應義塾大学出版会)が労働関係図書優秀賞を受賞するなど、高い社会的・学術的実績を挙げることにつながった。
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