2022年度は,前年度の研究を踏まえ,より良い結果を得られた東日本大震災後の復興投資を対象として分析を進めた.具体的には,処置群を(1)特定被災地方公共団体に指定された東北地方沿岸部の自治体としたケース,(2)東北地方沿岸部と関東甲信越地方の特定被災地方公共団体を対象としたケース,の二つについて想定した.対照群については,いずれのケースでも処置群以外のすべての自治体を対象とした.なお,自治体は市のみを対象とした場合と,市町村まで含めた場合の双方について分析を試みた.簡単な分析では,すべての推定において震災復興投資はアウトカム(被説明変数)である労働(就業者数)を増加させるとの結果が得られた. さらに分析を精緻にするために,まず上記(2)のグループを対象として,(a)全ての市町村を対象としたケース,(b)東北地方の市町村を対象としたケース,(c)全ての市を対象としたケース,の三つのケースについて,differenc-in-differences(DID)推定とマッチング推定を試みた.DID推定では,(a)と(c)については復興投資の因果効果が統計的に有意に正に確認された.一方,マッチング推定では,すべてのケースについて復興投資が被災地の雇用を増加させるとの結果が示された.このことは,東日本大震災後の復興投資が,被災地の雇用回復に寄与したことを示唆するものである.以上の結果は「Disaster relief and regional employment: the case of the Great East Japan Earthquake」という論文にまとめられ,審査付き学術雑誌に2022年度内に投稿済みである. その他,関連研究として,2021年度にDPとしてまとめた財政政策と雇用に関する研究を,2回国際学会で発表した.
|