本研究は「選挙公報」を用いて、衆議院の小選挙区制導入後に政治家の選挙公約がどのように変わったのか、(1)政党主導の選挙運動、政治活動が強まったかどうか、(2)地元選挙区への利益誘導が強まったのかどうか、を中心に検証する。この二点に注目するのは、中選挙区制は政党主導よりも候補者主導の選挙戦を促し、地元への利益誘導を進める制度と考えられているからである。 (1)については、選挙公報にみられる候補者の個人名と所属政党名の大きさを測り、その大きさを候補者個人と所属政党のアピールの程度を測る尺度として分析した。分析結果について、二つの論文に分けて執筆することにした。一つは、東京都の候補者全体について、小選挙区導入前後の違いを分析した論文であり、英文学術誌に投稿中である。この論文では小選挙区導入後は候補者個人のアピールは統計的に有意に減り、政党名のアピールは有意ではないが強まっていることを明らかにした。また、2023年秋の日本政治学会で発表する予定である。 もう一つは、自民党候補と他の候補とを比較分析したものである。自民党候補ではむしろ政党のアピールは減り、候補者個人のアピールが増えている現象を発見した。この結果は自民党の選挙スタイルは他党に比べて従来型に近いことを示唆している。こちらの論文は英文学術誌に投稿する準備を行っている。 (2)については、都道府県の中で、改革前後で区割りが変わっていない選挙区のある都道県に注目してデータを作成し、分析を継続しているが、東京都に関しては、自民党候補が地元への利益誘導を訴える傾向が高いこと、そして、小選挙区導入後、地元への利益誘導を訴える割合が減っていることを発見した。
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