最終年度に進展した研究は2つある。まず、2022年度に引き続き、マルチタスクを実行する必要があるような状況で、各タスクを実行する権限を異なるエージェントに与えることと、政治家や経営者といった主体(プリンシパル)に集中させることとを比較した。中でも政府組織を想定し、ロビイストから政治家への情報伝達とインフルエンス活動の双方が政策決定に与える効果について考え、政策間の調整と各政策の適格性とロビイストの存在について研究した。現在,“The Allocation of Authority in Government Organizations and Coordination in Policies”というタイトルで英文査読誌への投稿を準備している。 次に新たに“Compromise and Information Acquisition”というタイトルの研究を開始した。適切な意思決定のために複数のエージェントは情報獲得のための投資を行うが、得られる情報はもしかすると各エージェントにとって好ましいものではないかもしれない。そのような可能性は情報獲得のインセンティブを弱めることになる。そのような状況で政治家や経営者などの中庸な選好をもつ主体が存在することでエージェント情報獲得のインセンティブを高めることができることを議論する。 研究機関全体を通じて政府などの組織内での権限配分の問題を分析した。今年度におこなった研究以外では、組織内競争の仲裁者としての経営者や政治家に決定権限を与えることのメリットを明らかにした研究である“Mediating Internal Competition for Resources”はJournal of Industrial Economics誌に掲載された。また、分析の背後にある理論モデルを解説した書籍である『情報とインセンティブの経済学』(有斐閣)を出版した。
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