令和4年度は、仕掛中であったJ-REIT関連シンジケートローン市場のネットワーク構造の解明と同市場における信用連鎖リスクの伝播に関して、ネットワークモデルとストレステスト手法を開発し分析した。J-REITの資金調達にシンジケートローンへの依存度が近年増嵩しており、J-REIT内外のショックに対する適切なリスク管理が重要である結果を得た。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)リスク要因が企業の信用リスクに与える影響を分析し、リスク要因の代替変数として、E、S、Gの各スコアは必ずしも企業の信用リスク削減に寄与しないとの結果を得た。 この他、研究期間全体を通じて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が金融証券市場に与える影響について、3つの課題に取り組んだ。ここでの研究の視座は、基本再生産数や陽性率などCOVID-19リスク関連指標と各種金融証券市場変数との相互連関性を明らかにすることである。第1課題は、本邦向けに独自開発した感染症数理モデルSIRDモデルにより、感染拡大状況を示す基本再生産数を計算し、当該指標と東証株価指数(TOPIX)との相互連関性を調査した。第2課題は、東証33業種別株価指数を利用し、都道府県別の業種別株価指数を合成し、多変量DCC-GARCHモデルにより、COVID-19の都道府県別かつ業種別のCOVID-19感染拡大状況と地域経済との連関度を明らかにした。第3課題は、主要12カ国のソブリンデフォルト確率を金融工学モデルで推計した上で、各国のCOVID-19関連財政支出とソブリンデフォルト確率増減の連関度を分析し、COVID-19危機のソブリンデフォルトリスクへのインパクトを明らかにした。 以上、研究期間全体を通じて5つの研究課題を実施し、査読付国際学術誌に4編公刊し、1編は審査最終段階にある。また、国際学会での審査付発表11件の成果を挙げた。
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