研究課題/領域番号 |
20K01758
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
久保 克行 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (20323892)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コーポレートガバナンス / 取締役会 / 社外取締役 / 雇用 / 労働 |
研究実績の概要 |
本研究ではコーポレート・ガバナンスと雇用・賃金等の従業員の処遇の関係を実証的に分析することを目的とする。従来、コーポレート・ガバナンスと企業の業績・行動にどのような関係があるかに関しては多くの実証研究が行われてきた。特に社外取締役を導入することが企業の業績を向上させる効果があるかどうかについては多くの研究が行われてきている。一方で、コーポレート・ガバナンスと雇用・賃金等の従業員の処遇については研究の蓄積が多くはない。このことは望ましいことではないと考えられる。コーポレート・ガバナンスによって企業が株主価値を重視する傾向が強くなったとする。この場合、従業員の処遇に影響を与える可能性がある。このような問題意識から、本研究では従業員の処遇に注目する。 コーポレート・ガバナンスとしては、主に取締役会の構成に注目するが、関連してトップマネジメントチームの構成および所有構造にも注目する。取締役会の構成としては、伝統的に社外取締役の有無に注目が集まってきている。しかしながら社外取締役を考える際には、社外取締役のバックグラウンドを考慮する必要がある。他社でCEOとしての経験をもつ社外取締役と、弁護士としてのキャリアをもつ社外取締役には期待される役割は異なると考えられる。トップマネジメントチームについて注目する研究は多くはないが、執行と監督の分離が進む中で、今後注目されると予想される。所有構造としては、とくに投資ファンドの役割に注目する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を行うにあたり、日本の上場企業のコーポレート・ガバナンスのデータ、企業の財務データおよび従業員の処遇に関するデータを収集した上で整備する必要が不可欠である。現時点で、必要な変数に関してはある程度収集できており、整備している状況である。 企業の財務データについては、Nikkei NEEDS FinancialQUEST等から収集している。企業の所有構造についてはNikkei NEEDS Corporate Governance Evaluation System(NEEDS-cges)を主に使用している。ただし、投資ファンドによる投資についてはレコフ社のデータを用いている。取締役会の構成、それぞれの背景についてはNEEDS-cges、東洋経済新報社の役員四季報に加えて各社の公表資料を用いている。トップマネジメントチームの構成についてはまとまった情報はデータベースとして整備されていない。このため、ビューロー・バン・ダイク社のOSIRISデータベースや各社の公表資料を参照している。現在、これらのデータを使用し、分析を行っている。 現在、投資ファンドが雇用・賃金に与える影響についての分析がある程度進んでいる。投資ファンドについて問題となるのが従業員と投資ファンドの利害対立である。従業員と投資家の利害は一致することも多いが、対立するような状況もないわけではない。例えば、投資ファンドは投資先の従業員を削減したり、賃金を削減したりすることで利益を確保しようとするかもしれない。そこで、投資ファンドが投資した企業において雇用・賃金にどのような影響があるかを、2007年から2017年の上場企業のデータを使用し、ディファレンス・イン・ディファレンスの手法を用いて分析した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、データの整備を継続し、また分析を行う予定である。また、結果を受けて学会等で報告し、ワーキングペーパーとして発表した上で国際的な学術雑誌に投稿を行う。 投資ファンドが従業員の雇用・賃金に与える影響に関しては、すでにワーキングペーパーとして発表している。このワーキングペーパーを元にさらに精緻な分析をおこなった上で国際的な学術雑誌に投稿を行う予定である。 並行して、取締役会・トップマネジメントチームのあり方が雇用・賃金に与える影響について分析を行う。まず注目するのは社外取締役の属性である。東洋経済新報社の役員四季報や各社の公表資料から社外取締役の属性に注目した上で雇用・賃金に与える影響について分析する。分析についてはプロペンシティ・スコア・マッチングを行なった上でのディファレンス・イン・ディファレンスを主に用いる。 当然の話であるが、雇用や賃金にはコーポレート・ガバナンス以外にもさまざまな要因が影響する。実証分析に際してはこれらの要因をコントロールする予定である。考慮する一つの点は、バイアスである。コーポレート・ガバナンスやトップマネジメントチームに変化がある企業と変化がない企業には、さまざまな属性の違いがある可能性がある。また、雇用条件の変化とコーポレート・ガバナンスの変化が同時に怒っている可能性もある。これらの可能性を考えてプロペンシティ・スコア・マッチングや操作変数法を用いる予定である。 また、そもそも雇用や賃金を変化させることが望ましい企業とそうではない企業があると考えられる。現在、最適な雇用水準にある場合、コーポレート・ガバナンスが改善したとしても雇用は変化しないであろう。このことを考慮するために、トリプル・ディファレンス・モデル等を用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会での報告および海外の共同研究者との打ち合わせのための海外出張を企画していたが、新型コロナウイルス感染拡大により、取りやめた。 使用するデータが予想よりも大きくなったことから現在、計算に長い時間がかかるようになっている。このため、高性能なコンピューターを購入する予定である。このことにより、研究効率を向上させることができると期待できる。
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