本研究の目的は、コーポレートガバナンスが従業員に与える影響を実証的に分析することである。この分析を行うために、取締役会の現状、所有構造の変化及びその影響について 分析を行なった。 本研究の結果は多岐にわたる。一つの重要な結果は、コーポレートガバナンスと従業員の処遇に密接な関係があることを実証的に示したことである。たとえば、いわゆる投資ファンドによって買収された企業では、雇用を削減する傾向がある。このことは、ケースレベルでは議論されてきているが、データを用いた分析は限られていた。このように、コーポレートガバナナンスと従業員の関係を実証に示したことが貢献である。一般に株主の利害と従業員の利害は代替的であると議論されることがある。すなわち、資本市場の力が強くなると従業員の処遇が悪化するのではないか、と考えられることもある。しかし、実証結果を見ても分かるように必ずしもそのような関係があるわけではない。
現在、人的資本経営が多くの企業において重要なテーマとなっている。人的資本経営にはさまざまな意味があるが、最も重要な点は、従業員の教育・訓練や処遇についてCEOや取締役会が明示的に議論することが必要であること、また、そのことをCEOや取締役会が外部の利害関係社に説明することが必要である、ということである。本研究は人的資本経営を考える際に必要な実証的な基礎を提供できたといえる。しかしながら、これらの研究にも多くの限界がある。取締役会やトップマネジメントチームのあり方をさらに詳細に分析する必要がある。また、従業員の処遇についてもさらに詳細に分類を行う必要がある。今後、コーポレートガバナンスのあり方と従業員の関係についてさらなる分析が必要であると考えられる。
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