研究課題/領域番号 |
20K01761
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
岩城 秀樹 京都産業大学, 経営学部, 教授 (40257647)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 曖昧性 / 気質効果 / 滑らかな曖昧性モデル / 非期待効用 / 経済パズル / 不確実な確率を持つ期待効用 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究成果は以下のとおりである。 (1) 昨年度、将来起こり得る結果が不確実で、起こり得る結果や結果の生起確率が一意に定まらないという曖昧性下での意思決定モデルの一つであるKlibanoff, P.らが考案した滑らかな曖昧性モデルを公理に基づいて参照点依存型に拡張したが、引き続き、本年度も、このモデルを用いて、従来のファイナンス理論では説明の付かないアノマリーとして扱われてきた気質効果(保有資産価値が上昇した場合に比して、下落した場合には保有資産の売却を行わないという実証的に観測される現象)の解明を数値実験によって行った。実現収益に対しての選好を考えた場合には、従来のモデルよりも強く気質効果が発現するという結果が得られたので、これを論文にして、査読付き国際学術誌に公表した。 (2) Izhakian, P.が提唱した不確実な確率をもつ期待効用(Expected Utility with Uncertain Probabilities)を用いて、人々の曖昧性に対する態度が、ポートフォリオ選択と資産価格にどのように影響を与えるのかについて比較静学分析を行った。この結果、以下の3つの結果を得た。①対象資産の期待収益率が正であっても、収益率が曖昧な資産については投資をしないことを示した。②曖昧性回避が、収益率が曖昧な資産に対する需要を減少させるための条件を導出した。③市場データに基づき推定したパラメータ値を用いて状態価格密度を導出し、市場参加者の曖昧性に対する態度によって状態価格密度が必ずしも総消費の単調減少とならないことをしめした。これらの含意は、従来の経済学でパズルとされている①market participation puzzle、②equity premium puzzle、③pricing kernel puzzleの妥当な説明を与えうるということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の「補助事業期間中の研究実施計画」に記載したとおり、令和3年度は、以下の研究を行うことであった。 (1)Klibanoff, P.らが考案した滑らかな曖昧性モデルを、既存の文献調査に基づき、公理を用いて参照点依存型に拡張する。すなわち、参照点を基準に曖昧性に対する態度が変化するモデルを導出する。 (2)導出したモデルを基に比較静学を通じて曖昧性が人々の資産価値と資産選択に与える影響を考察し、従来の経済主体は一様に曖昧回避的あるいは曖昧愛好的とするモデルから得れる結果との違いが何であり、何故その違いが生じるのかを分析し、得られた結果の経済学的含意について考察する。 (3) 参照点依存型曖昧性下の意思決定モデルを、滑らかな曖昧性モデル以外のものとした場合に、どのような違いが現れるのか、そして、その違いが何故生じるのかについて考察する。 この研究実施計画に照らして、現在までの本研究課題の進捗状況は、上述の「研究実績の概要」に述べたとおりの成果が得られており、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、当該年度得られた研究成果(研究実績の概要の(2))を論文としてまとめて適当な国際学術誌へ投稿し論文の掲載を目指す。今後の研究としては、以下の研究を行っていく。 これまで行ってきた本研究会課題に対する研究では、滑らかな曖昧性モデルを用いた場合、曖昧性の気質効果に与える影響は、明確であるとは言い難かった。これまでの文献調査の過程において、曖昧性評価の新たな方法として、Qualitative Uncertainty Assessments (Gul, F. and W. Pesendorfer 2020 ``Calibrated Uncertainty,” Journal of Economic Theory 188 105016)を発見した。これは、各事象に対して、様々な曖昧性に対する態度をもつ意思決定者が共有する主観的な尤度の上下幅をもとに、事象に対する不確実性の測度を与えて、そこから各意思決定者の事象に対する選好を表現するというものである。上述の論文では、従来のショケ(Choquet)期待効用を始めとする非期待効用理論もこのQUAにもとづいて再構築できることが示されている。 そこで、今後の研究としては、QUAにもとづいた特定の意思決定モデルを構築することによって、 最適資産選択問題を定式化し、この問題の解法と解の性質について考察し、それに基いて気質効果の説明を比較静学や数値実験を行うことによって試みることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、コロナ禍により参加予定していた学会がすべてオンライン開催となってしまったため、旅費として予定していた予算金額を消化することができなかった。このことにより次年度使用額が生じてしまった。翌年度以降も主として国際学会は、当面オンライン開催となる見通しなので、翌年度分として請求した助成金と合わせた金額の旅費予定分については、主として国内研究者との共同研究および国内研究会参加などの研究交流のための国内旅費として使用していく予定である。
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