研究期間全体を通じて、国内外共通要因と国・資産固有の要因を状態変数に持つ「債券・株式・為替レートの無裁定同時価格モデル」の推定を行ってきた。推定値を用いて、債券と株式のリスクプレミアムの関係だけでなく、為替リスクプレミアムと債券・株式のリスクプレミアムの関係についても明らかにすることが当初の目的であった。しかし、推定結果の頑健性を確認できるところまでは到らなかった。 そこで、為替レートを取り除いた「多通貨・債券・株式の無裁定同時価格モデル」の推定を日米の金利・株式指数およびその配当利回りの時系列データを用いて行い、日米共通要因、米国および日本固有の要因に関する因子の抽出を行った。為替リスクプレミアムの分析を行うことはできなくなったが、日米金利・株式のボラティリティ、異なる資産間相関をモデルの推定値から計算し、国内外共通要因や固有要因の寄与を定量化した。 Binsbergen et al.(2012)の研究に端を発し、近年、株式の利回りやリスクプレミアムの期間構造に関する研究が盛んになっている。最終年度、本研究で扱う2次ガウシアンモデルの枠組みから配当ストリップスの価格の解析式を導出し、日米の株式利回りとリスクプレミアムの期間構造を計算するだけでなく、その国内外共通要因と国固有要因の寄与を評価することができた。得られた結果を学会で報告した。 本研究で構築したモデルの基礎をなす2次ガウシアンモデルは、金利期間構造モデルやポートフォリオ最適化への応用がある。最終年度には、日本の非伝統的金融政策期におけるイールドカーブを分析することに資する新しい金利期間構造モデルの提案と実証分析に関する論文が国際誌に掲載許可された。また、債券・株式同時価格モデルに基づき、ナイトの不確実性に直面した長期投資家の最適消費・投資問題についても研究を進め、理論や数値分析結果をディスカッションペーパーにまとめた。
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