研究実績の概要 |
企業の実物投資・資金調達・倒産の問題について、以前は静学モデルで分析されることが多かったが、近年では動学的な確率モデルでタイミングや変動の問題を分析することが重要になっている。本研究では、新規的な理論モデルを開発・分析して、静学モデルでは分からなかった、企業活動の動学プロセスの解明を行ってきた。報告書の後半に記載した通り、今年度は、3本の論文が国際的な査読付きジャーナルに掲載された。 Nishihara, Shibata (2021, JEDC) では、倒産が互いに負の波及効果をもつ2企業のゲーム理論モデルの均衡を解析し、企業が事前に戦略的に負債を増加させて同時倒産を行うという均衡が生じる条件を明らかにした。多くの研究が連鎖倒産のメカニズムやリスクを分析しているが、本研究が提唱した同時倒産のメカニズムは、本質的に新しく、同じネットワークに属する企業の資本構成の相関や連鎖倒産に関する実証結果の説明に役立つ。 Shibata, Nishihara (2021, IJTAF) では、倒産後の債権者の流動化戦略を考慮した、実物投資・資金調達・倒産モデルを分析した。企業の清算価値の増加は、負債のクレジットスプレッドを減少させ、負債発行量と投資量を増加させる一方、投資タイミングを遅らせることを示した。 Nishihara (2021, MDE) では、異なる時間割引率をもつ2企業の市場参入競争モデルを分析した。投資費用に差がない場合には、割引率がより低い企業が、より早く市場に参入してより多くの利益を得るが、割引率がより低い企業の方が高い投資費用をもつ場合には、市場参入の順序は、市場の特性(先行者利益、ボラティリティ、成長率)によって変わることを示した。
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