研究実績の概要 |
企業の実物投資・資金調達・倒産の問題について、以前は静学モデルで分析されることが多かったが、近年では動学的な確率モデルでタイミングや変動の問題を分析することが重要になっている。本研究では、新規的な理論モデルを開発・分析して、静学モデルでは分からなかった、企業活動の動学プロセスの解明を行ってきた。報告書の後半に記載した通り、今年度は、3本の論文が国際的な査読付きジャーナルに掲載された。 Nishihara (2023, EJOR) では、売り手企業が主導する企業買収のモデルを分析した。複数のタイプの買い手企業が確率的に到着するモデルで、売り手企業が買収に応じるタイミングと価格を導出した。買い手企業の到着率、異質性の度合い、情報の非対称性、収益の不確実性が、タイミングと価格に及ぼす影響を明らかにした。買い手主導の企業買収のモデルが多いが、実際の企業買収の半数程度は売り手主導であり、この研究によって、売り手主導のメカニズムの理解が深まった。 Shibata, Nishihara (2023, JBF) では、標準的な実物投資・資金調達・倒産モデルを、経営者が清算価値について私的情報を持つモデルに拡張した。経営者と投資家の情報の非対称性が、投資を遅らせ、負債を減少させることを示した。また、情報の非対称性が大きくなると、企業は、無リスク負債と株式によって資金調達を行うことを示した。 Nishihara, Shibata, Zhang (2023, IRFA) では、標準的な実物投資・資金調達・倒産モデルを、キャッシュフローに基づく借入制約のあるモデルに拡張した。この制約の投資・資金調達・倒産への影響は、清算価値に基づく借入制約とは大きく異なることを示した。例えば、不確実性の増加は、投資タイミングの遅れにより、キャッシュフローに基づく借入制約を緩める効果があることが分かった。
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