研究実績の概要 |
企業の実物投資・資金調達・倒産の問題について、以前は静学モデルで分析されることが多かったが、近年では動学的な確率モデルでタイミングや変動の問題を分析することが重要になっている。本研究では、新規的な理論モデルを開発・分析して、静学モデルでは分からなかった、企業活動の動学プロセスの解明を行った。報告書の後半に記載した通り、最終年度は、2本の論文が国際的な査読付きジャーナルに掲載された。研究期間全体では、合計10本の論文が国際的な査読付きジャーナルに掲載された。 Dong, Nishihara, Yang (2023, JEDC) では、ローン保証付きの負債資金調達・実物投資モデルを分析した。近年、中国では、リスクが高い事業を始めようとする起業家に対する融資において、銀行が、デフォルトリスクを避けるために、公的な保険機関などを利用して保険をかけることが広がっている。本論文では、3者間の契約条項が、企業価値、実物投資タイミング、倒産タイミングなどに与える影響を解明した。この研究によって、既存研究で知られていた通常の負債資金調達に関する結果(トレードオフ理論やデットオーバーハングなど)とは異なる結果が多く示され、ローン保証付きの負債資金調達に関する理解が深まった。 Nishihara (2024, AOR) では、投資コストが高いが持続可能な事業と、投資コストが低いが持続不可能な事業のどちらか一方に投資を行うという実物投資モデルを分析した。ESGリスク、事業の成長率やボラティリティ、時間割引率などが、事業の選択に与える影響を明らかにした。さらに、持続不可能な事業を行う場合にレバレッジが高くなることも示した。この研究によって、事業のサステナビリティと企業価値やレバレッジの関係に関する理解が深まった。
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