| 研究課題/領域番号 |
20K01798
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| 研究機関 | 明治大学 |
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研究代表者 |
須藤 功 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (90179284)
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| 研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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| キーワード | 大きすぎて潰せない(TBTF)政策 / 最後の貸し手(LLR) / アメリカ金融政策 / システミック・リスク / 途上国累積債務問題 |
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| 研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ金融当局が金融恐慌に直面した際に、システミック・リスク回避を目的とする「大きすぎて潰せない(TBTF)」原理が、いつどのように形成されたのかを究明することを課題とする。その際、アメリカ巨大銀行のグローバル展開と経営危機を歴史的に跡付け、途上国累積債務問題がTBTF政策を条件付けた点とともに明らかにしようとするものである。具体的には、以下の２つの論点を提示して検証する点に特色がある。
第１は、TBTF政策の起点となったマネー・センター銀行の経営戦略を、途上国融資とユーロ・マネー取り込みに注目して跡付けることである。第２は、TBTF政策を導入するにあたっての金融政策当局の対応を、それぞれの役割に着目して検証することである。TBTF政策の策定・実施にあたり、連邦預金保険公社（FDIC）とは異なり、連邦準備制度理事会（FRB）は途上国の累積債務問題に神経を尖らせていたが、一方で財務省や連邦議会は大統領選挙を目前に控えて、同時期のクライスラー社などの救済と比較されることを怖れていた。本研究は、こうした状況下において途上国累積債務問題がTBTF政策の形成に及ぼした影響を資料に基づき検証するものである。
本年度も、新型コロナウイルスのパンデミックが継続したことで海外資料調査を断念せざるを得なかった。そこで、従来、TBTF政策の出発点として金融自由化による巨大銀行の経営破綻に焦点が当てられてきたが、それに先行した事件である、全米最大の鉄道会社で全米第６位の巨大企業のペン・セントラル鉄道の経営破綻（1970年6月）とその連邦政府による救済計画の立案とその破綻に着目し、1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行救済と比較・検証する作業を行なった。公共性で共通するにもかかわらず、銀行と鉄道でTBTF政策の対象の違いを追求した。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、アメリカ金融当局が金融恐慌に直面した際に、システミック・リスク回避を目的とする「大きすぎて潰せない(TBTF)」政策の形成過程を究明することに主眼を置いている。この目的を遂行するため、連邦議会下院銀行委員会スタッフ、その他が収集したコンチネンタル・イリノイ銀行などの経営資料を入手するべく、主にアメリカ国立公文書館(NARA)および連邦議会図書館で撮影・収集する計画を立てていた。しかし，昨年度に続いて本年度も新型コロナウイルスのパンデミックの継続により計画を断念せざるを得なかった。
そこで本年度は、巨大金融機関に対するTBTF政策の14年ほど前に試みられた、アメリカ最大の鉄道会社で、全米第6位の企業規模を誇ったペン・セントラル鉄道の経営破綻と連邦政府による救済計画の破綻を分析し、金融機関のTBTF政策との比較を試みる研究に着手した。この研究成果は、アメリカ経済史学会第64回全国大会・自由論題報告（「ペン・セントラル鉄道の経営破綻と救済計画の破綻（1970年）――Too-Big-to-Fail問題に関連して」2021年9月25日、オンライン）で発表した。
ペン・セントラル鉄道は、長年にわたり州際通商委員会の規制・保護の対象とされたが、救済計画は運輸省や国防総省が主導し、連邦準備制度が融資を保証する内容であった。しかし、議会の激しい批判で救済計画は破綻した。巨大鉄道会社は公的保護下にあり、倒産させることはできないという「幻想」は、現実に幻想となったことが確認された。それは第１に、鉄道輸送業の衰退の中でコングロマリット型の事業多角化を進めたことで、ペン・セントラル鉄道は公益事業の領域から逸脱してしまったこと、第２に、コマーシャル・ペーパー市場への影響を除けば、金融市場への打撃が限定的であったことにあった。
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| 今後の研究の推進方策 |
現在、欧米各国でコロナ感染対策の規制緩和が進み、わが国でもワクチン接種が浸透し、厳しい出入国管理も緩和される傾向にある。このため、「現在までの進捗状況」で述べたように、新型コロナウイルスのパンデミックにより中断していた、アメリカの公文書館および大学図書館における歴史資料の収集計画が、本年夏季休業期間中に、遅くとも2023年春までには実施可能になると想定している。
本年度は、連邦議会下院銀行委員会スタッフ、その他が収集したコンチネンタル・イリノイ銀行などの経営資料を入手するべく、主にアメリカ国立公文書館(NARA)および連邦議会図書館で撮影・収集する。また、ニューヨーク連邦準備銀行総裁（1975-79年）、FRB議長（1979-87年）の要職にあったPaul A. Volcker Papersの一部はセントルイス連邦準備銀行のウェブサイトで公開されているが、本研究にとって最も重要と思われる文書類の多くが同サイトでは非公開であることから、現地プリンストン大学図書館での調査・収集を計画している。
アメリカでの資料収集出張が実現するまでのあいだ、本年度に、アメリカ経済史学会第64回全国大会・自由論題報告（「ペン・セントラル鉄道の経営破綻と救済計画の破綻（1970年）――Too-Big-to-Fail問題に関連して」2021年9月25日、オンライン）で発表した成果を、学会誌に投稿する作業を行う。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
本年度も、新型コロナウイルスのパンデミックが継続したことで、本研究の目的達成に不可欠な海外資料調査・収集を断念せざるを得なかった。
このため次年度は海外資料調査を重点的に実施する。具体的には、アメリカ国立公文書館(NARA)および連邦議会図書館で連邦議会下院銀行委員会スタッフ、その他が収集したコンチネンタル・イリノイ銀行などの経営資料を、プリンストン大学図書館所蔵でPaul A. Volcker Papersの未公開部分を入手する。
万が一、来年度もまったく海外資料調査・収集ができない状況が夏季休業前後に発生した場合には、これまで調査・収集した政府文書などを核にして、当初の研究目的の達成に向けて少しでも近づける作業を実施する。
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