研究課題
本研究は近代日本での産業(工業)化や都市化という社会変動が労働生産組織の「単位集団」である世帯において、その最下層の成員である乳幼児及び学童の健康にどのような影響をもたらしたのかを、公共団体や自治体が整えた統計資料や明治の学校令以降各尋常小学校および尋常高等小学校で作成された学籍簿を用い、乳幼児の疫学的状況(特定の集団における乳幼児死亡や疾病の分布や頻度など)や学童の身体状況(身長・体重・身体的特徴・疾病状況など)の変化を通じて、明らかにすることを目的としている。本研究は社会の「単位集団」として認知されてきた世帯が都市化や産業化を受け止める堡塁・砦として機能したと考えることを前提として、上記の分析を通じて、近代日本の都市部や農村部に居住する世帯に成育した乳幼児・学童の身体生理学的変化と社会のマクロ経済的な変動の関係を明らかにできると確信している。つまり、マクロ経済の効果を「単位集団」である世帯が受けとめ、その成果を世帯構成員に再配分するのである。2023年度の研究成果をまとめると、「世帯としての生活水準」の概念把握とその計量化を大きな研究課題としているが、1)最近の史料DX化や数量化に関する方法論の問題点を指摘した論稿を『一橋経済学』で刊行した。つぎに、2)近代になって東京・大阪・京都・名古屋などの大都市に忽然と現れた「細民」(明治末期から大正初期に行政用語として使われはじめ、意味としては貧困でありながら住居に定住している人びと)の生活水準の計測を1930年代初頭の東京市内の某細民地区の細民世帯個票データを使い、所得水準と生活費の両面から、その貧困度を観察・分析結果を再検討した英文のディスカッションペーパを公刊した。また、3)長野県下伊那郡下の学籍簿を使った身長体格分析では、個人データを使った統計分析の最終結果を日本史専門論文集の1編として刊行した。
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一橋経済学
巻: 14 ページ: 3-26
10.15057/82055
Discussion Papers In Economics And Business, Osaka University
巻: 22-06-Rev ページ: 1-14
歴史からみた経済と社会 日本経済史研究所開所90周年記念論文集
巻: 2部 ページ: 435-458