1.最終年度の研究内容について。最終年度にあたる今年度は、初年度と二年度目に実施した研究を通して得られた成果を整理総括したうえ、本研究の歴史的意義を検討することを課題とした。具体的には、初年度で明らかにした瀋陽市国営企業の動向、二年度目に検討した私営商工業の動向を合わせて、戦時からの経済回復・重工業化を図りながら経済体制の再編条件を急進的に整えていくこの時期の歴史的意義を検討した。 2.研究業績について。論文4本を完成した。各論文で明らかにした内容も含めて下記のとおりである。①「国共内戦下の工業化-哈爾濱・瀋陽を移動する軍需生産」。本論は、「満洲国」崩壊から中国共産党による支配確立までの期間、政治的・社会的な状況が目まぐるしく変化していくなかで、瀋陽と哈爾濱の工業生産はいかなる展開をみせたのか、両都市を移動する軍需生産を中心に検討した。②「旧日系企業の再編と「南廠北遷」ー瀋陽・哈爾濱の重工業化の新展開」。本論では、旧日系企業の再編過程の検討を通して、経済回復期の瀋陽と哈爾濱に起きた重工業化の特質とそれをもたらした要因を明らかにした。③「旧日系企業の下請から新中国の担い手へー瀋陽における中国機械企業の変容」。本論では、満洲国期から存続していた中国機械企業に焦点を絞って、各企業が国共内戦期、共和国の経済回復期、資本主義経済の社会主義改造期など、政治状況と社会状況が激変するなかでいかなる変容を遂げたのかについて、事例に即して分析した。④「急がされた社会主義改造ー加工訂貨の効用と瀋陽・哈爾濱」。本論は、急速な公私合営化を実現させた加工訂貨の効用と私営工業企業の経営実態の変化を瀋陽と哈爾濱の事例を用いて検証した。 3.研究資料の収集について。関連する分野の資料収集にも一定の成果がみられた。今後、近い領域の研究のために寄与するものと考える。
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