研究課題/領域番号 |
20K01814
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
鴨野 洋一郎 関東学院大学, 経済学部, 准教授 (80631192)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フィレンツェ / 毛織物工業 / 国際商業 / 貿易する織元 / オスマン帝国 |
研究実績の概要 |
本年度の研究は、1)「ヴェントゥーリ家の経済活動全体および毛織物製造・販売活動の把握」、2)「フランチェスコ・ディ・ジュリアーノ・デ・メディチの駐在員帳簿の検討および他の駐在員帳簿との比較」、という2つの内容を軸に進めた。 まず1)の研究では、カロッチの研究に依拠しつつ、フィレンツェの有力家系の1つとなるヴェントゥーリ家の歴史をその起源にまでさかのぼり、同家がはじめ都市の毛織物工業とかかわり、その後銀行業やある程度の規模の国際商業にも参入したことを明らかにした。またヴェントゥーリ家は、15世紀後半から16世紀初頭には毛織物の製造およびトルコでの販売に注力した。この活動の詳細は、フィレンツェ国立古文書館に所蔵される一連の経営記録から解明することができる。本年度はその準備として、これらの経営記録が古文書館に入るにいたった経緯を調べ、ある文書群がさまざまな危機を乗り越えて今日まで伝来したプロセスを整理した。そして経営記録の内容を簡潔にまとめた。研究結果は、『経済系』280集に掲載した。 つぎに2)の研究では、一橋大学社会科学古典資料センターに所蔵される、フランチェスコ・ディ・ジュリアーノ・デ・メディチが毛織物販売のためにトルコに旅行したさいに記録した帳簿の詳細な検討を行った。フィレンツェからイスタンブルまでの旅行の詳細や、トルコの毛織物購入者・東方物産販売者の詳細、決済プロセスの詳細などを明らかにした。さらに、帳簿から判明する商業活動の実態を、他の駐在員帳簿からわかる実態と比較し、フィレンツェの国営ガレー事業と結びついて展開されたフランチェスコの商業活動の特徴を浮き彫りにした。研究結果は、イタリアの学術誌Archivio storico italianoに掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画していたヴェントゥーリ家の経済活動の調査については、先行研究やすでに撮影している史料をもとにかなり詳しい調査をすることができた。またその研究結果を、所属機関の紀要に掲載することもできた。もっとも、当該テーマに関連する史料をフィレンツェの古文書館でさらに調査するという計画は、海外渡航が困難になった世界情勢により変更せざるを得なくなった。 だが他方で、フランチェスコ・ディ・ジュリアーノ・デ・メディチの駐在員帳簿から得られた研究結果をイタリア語でまとめ、イタリアの学術誌に投稿することができた。投稿論文はまもなく掲載される予定である。これについては、本研究の最終年度までに達成する計画であったので、大きく進展できたと考えている。 以上を総合すると、今年度の研究計画にあったヴェントゥーリ家にかんする研究はおおむね順調に進展し、さらに計画外であったメディチ家にかんする研究も利用できる史料から大きく進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ヴェントゥーリ家およびメディチ家の経営記録を詳細に調査するという当初の計画を維持していく。ただ海外渡航が難しいようであれば、ハーヴァード大学のメディチ家史料群の調査は断念し、その分ヴェントゥーリ家の調査に注力する予定である。すでに撮影した同家の経営記録は膨大であり、その調査を進めることが研究の主軸となる。 国内での研究を中心に行うことになった場合、ヴェントゥーリ家の研究にくわえ、より広い視野でルネサンス期フィレンツェの繊維工業の実態を把握し、それをヨーロッパおよびイスラーム世界の繊維工業史に位置づける研究を進めていきたい。この研究には、さまざまなアプローチからなされた先行研究を網羅的に収集し、調査する必要がある。大変な作業になるが、これを行ってはじめて、本研究が課題とするフィレンツェの「貿易する織元」の歴史的な意義をはっきりさせることができるだろう。調査の結果は、論文ないし単著・共著といったかたちで広く公表したい。
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