最終年度では、本研究課題の一つであるヴェントゥーリ家の調査について、前年度までの調査をふまえてさらに詳細な検討を行った。具体的には、ヴェントゥーリ家が経営した毛織物会社の製造および販売の諸側面を、総勘定元帳や備忘録の解読を通じて明らかにした。 ヴェントゥーリ家の毛織物会社は、「ソープラマーノ」と呼ばれる上質な毛織物を中心とした製造を大規模に展開し、その多くをトルコにあるオスマン帝国の各都市(イスタンブルやブルサなど)に送り、同家の駐在員を通じて販売した。同家が記録した会社の総勘定元帳や備忘録には、この経営の実態が詳細に記録されている。そこで本年度では、この記録に依拠しつつ会社の製造・販売を細かく検討した。 まず製造部門について、羊毛の購入価格および購入方法、各工程(準備・紡績・織布・仕上げ)でかかった経費、各工程の労働者、給与の支払い方法、各工程の経費の割合を明らかにし、これまでの先行研究のなかにヴェントゥーリ家の製造のあり方を位置づけた。同家の製造は、15世紀の典型的な製造方法と見なせることがはっきりした。 つぎに販売部門について、駐在員の活動、毛織物の輸送ルートおよび輸送方法、トルコでの販売、毛織物の購入者、販売経費、毛織物の種類(色)、毛織物販売から得られる利益について明らかにした。販売経費は売上のおよそ2割程度であり、輸送費や関税は高かったが、概ねあらかじめ予測可能な金額だった。最終的な利益については、史料を欠いている期間も含めると、3000フィオリーノ・ラルゴ以上はあったであろうという試算になった。 以上の分析により、ヴェントゥーリ家が多くの毛織物を製造し、トルコで販売することで、ある程度まとまった金額の利益を得ていたことを実証的に解明することができた。
|