本研究は,「プレシニア期の従業員において、ジョブ・クラフティングとワーク・アイデンティティ及び仕事の意味の認識が相互的に影響し合うことが、ジョブ・クラフティングの継続的遂行、さらにはワーク・エンゲージメントの向上を可能にするメカニズムはどのようなものか?」というリサーチクエスチョンを,理論的・実証的に検討するものである。研究最終年度である令和4年度の研究実績は以下の通りである。 第一に、プレシニア期の従業員の典型として、役職定年を迎えた後のポストオフ経験者を調査対象とした実証分析を多角的に検討した。まず、役職定年というトランジションにおいてもジョブ・クラティングを継続的に遂行するには、年齢包摂的な職場風土の醸成が重要であることを示した。また、役職定年といったトランジションにおいてどのようにジョブ・クラフティングを行うかについていくつかのプロファイルに分かれることperson-centered approachを用いて分析した。 第二に、ミドル・シニア従業員として質的調査から、ミドル・シニア社員がワーク・アイデンティティや仕事の意味を再構築する「適応的諦観」という概念を提示した。また、ミドル・シニアの手前である中堅社員において、キャリア自律が求められているという背景を踏まえて、ジョブ・クラフティングが仕事の意味の向上等を経て、ワーク・エンゲイジメントの向上につながることを、介入的研究によって明らかにした。 第三に、関係性ジョブ・クラフティングに注目し、それがどのように仕事の意味を向上させるパスの視点につながりうるかについて、仕事の意味の先行研究と社会的ネットワーク研究を取り入れることにより理論的な枠組みを示した。 さらに、以上の研究を踏まえつつ、ジョブ・クラフティング研究の今後の展望を示す書籍を刊行した。
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