研究課題/領域番号 |
20K01832
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
幸田 浩文 東洋大学, 経営学部, 教授 (60178217)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本四大売薬 / 日本五大売薬 / 富山売薬 / 近江日野売薬 / 大和売薬 / 田代売薬 / 伊佐売薬 / 備中売薬 |
研究実績の概要 |
第1の「『日本四(後に五)大売薬』地域の地域経営圏の研究」に関しては、2009年から2021年までの12年間にわたって、査読付き論文や招待講演で下記の成果を上げた。①近江商人の経営実態について考察し、近江商家の家憲・家訓の中に現代のCSR経営の源流が認められること、②日野売薬商人が他の3売薬地域とは異なり、店舗を取次とした委託・掛売・店頭販売方式を取ることで独自の展開をみせたこと、③家庭配置家庭薬業として知られる富山商人・大和商人・田代商人の成立起源、発展の背景、原料薬の仕入・調達・生産、売薬組織の構造と各時代の統治機構の法的規制等について考察した。 第2の「スモールビジネスの経営力創成とアントレプレナーシップ」、「ファミリービジネスの人事・組織戦略」と「長寿(百年)企業の第二創業」に関しては、書籍そして研究報告において下記の成果を上げた。 ①オーナー・ビジネス・ファミリーメンバーの三者を研究対象とした国内外のファミリービジネス研究の展開と、ファミリービジネス研究への周辺諸科学・理論からのアプローチについて文献研究により整理した。②ファミリービジネスの長寿企業を対象にその創業者・起業家に共通する特徴、起業家特性の一般的所見、長寿企業にみられる傾向、ファミリービジネスの事業継続性、そして事業継続性を実現するための指針を明らかにした。 第3の「経営者・管理者の育成ならびに経営力の創成」に関しては、書籍と研究報告で下記の成果を上げた。①報告者本人が実施したアンケート調査により、胆力(精神力)があり人柄・人望・人間的魅力に満ちた資質を持った経営者・管理者がいま求められていること、②望ましい行動が取れる経営者・管理者の育成には、関係者との密度の濃いコミュニケーションが図れる機会の増大と問題解決能力の研磨に流動的な人材交流が取れるシステムの構築の必要性を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究者は、先行研究においてこれまで「日本四人売薬」地域を中心に、売薬商人の行商圏構築の史的腿開と売薬商人間の競合関係を中心に考察を行ってきた。研究初年度(2020)には、江戸時代中期に備中国(現在の岡山県)で興り、かつて「日本五大売薬」の1つに挙げられる時代もあった[備中売薬]を取り上げ考察した。日本の売薬の創薬・創業あるいは配置売薬の時代・年代は必ずしも史実的に明確になっているものばかりではない。とはいえ、備中売薬は、五大売薬の中では比較的早くから売薬営業がみられ、四大売薬と同様、元禄年間(1688~1704)前後には、売薬の製造・販売が行われていた。 本研究では、第1に備中売薬がいつ、どこで、誰によって創薬・創業され、どのような販売方法で営業されるようになったのかを明らかにした。第2に備中国の名物売薬とされている振薬・熊胆丸・万輪丸・道三丸・紫金錠、そして看板薬として愛用され続けた犀角湯・たこ薬・傘の下の山来や成分・効能などについて整理した。第3に備中売薬の展開を元禄(1688)から寛政(1801)までと、文化(1804)から幕末(1868)までに大別し概説・考察した。第4に配置売薬の元祖・富山売薬の元祖と吁ばれる11代万代常閑と富山売薬の関係についての言説・伝説を繙き、その真相を明らかにした。 なお、2021年度もコロナ・ウイルス感染症の拡散により研究対象となった売薬地域への出張が予定通りに進まずやや遅れている。したがって、現地調査がままならず文献資料・史料などに大きく依存することになった。とはいえ、備中売薬の明治維新から現在までの史的展開をそれまでの四大売薬の史的展開と比較することで「日本五大売薬小史」という形で整理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、先行研究から独特な経営理念・経営組織形態・流通システムにより「日本四大売薬|に備中売薬を加えた「日本五大売薬」といった視点で地域経営圏が確立されてきた背景・過程、つまり成長プロセスを解明することができた。したがって、今後は、①当該地域で売薬業による売薬行商が生まれた背景・過程に関する文献研究・実態調査を実施すること、そして②行商という本質的に初歩的な経営形態をもちながら斯業を今日まで維持・成長させてきた各地域における長寿・売薬企業の原動力を明らかにする。 第2に、江戸時代創業の五大売薬を中心とした斯業が明治期の政府による洋薬重視政策に対して生き残りをかけて。従来の和漢薬の製造・販売を継続する道と新たな洋薬の製造・販売の道を選択するに至った背景・過程を解明する。 第3に明治期に売薬(配置家庭薬)業としての生き残りの道を選択した現在の配置家庭薬企業の事業承継・後継者育成問題を研究調査する。具体的には、①江戸期より現在まで続く配置家庭薬企業を考察することで、いわゆる長寿(百年)企業としての生き残りの要件を浮かび上がらせること、ならびに②末裔の代表的売薬(配置家庭薬)企業と企業と方向転換した代表的製薬企業の経営学的視点から比較考察する。 第4に①日本四大売薬地域から興った製薬・売薬業を今日まで企業として維持一成長させてきた原動力の解明、②末裔の製薬・売薬業として現在多くの製薬企業が所在する富山県、奈良県、佐賀県の代表的製薬企業の経営理念ならびにその流通システムに関する各社・各地域についての比較研究、③いわゆる長寿(百年)企業としての生き残ったスモールビジネスとしての売薬(配置家庭薬)企業の事業承継・後継者育成問題を中心に研究を進展させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言の発出により県境を越えての移動が制限されたことにより予定の研究出張ができず、旅費が未使用のため次年度に繰り越しとなった。当該旅費は2022年度の研究出張に充てることにする。
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